ある日の診療室の会話。
患者さん「先生、この歯が痛むのです。治療をお願いします。」
先生 「残念ですが、すぐに治療は出来ません。まず隣の歯から治しましょう。」
なぁんて言われたとしたら、あなたはその歯医者さんで治療を続ける事が出来るでしょうか?大抵の方は「NO」のはずです。 ところが、顎関節に問題がある患者さんの場合、このような矛盾したやり方が正しく、しかも患者さん自身の身体に良い影響を及ぼす事があるのです。
当院に来院された、Hさんのケースを例にとってみましょう。
Hさんは、左下7番がしみるので、この歯をどうにかしてほしい、という主訴で来院しました。お口の中を診てみると、なるほど、この歯には食いしばりによる咬耗(こうもう:噛む力で歯がすり減ること)でえぐれるほどの穴が開いており、さらにこの歯だけでなく、全体的に磨り減っている模様。
ではどうしてこの7番だけがひどくえぐれてしまったのでしょうか?食いしばりなら、まんべんなく磨り減るのが普通です。原因は、その手前の歯(6番)の位置がずれたことによる、低位咬合にありました。Hさんは若い頃、右下の5番(第二小臼歯)を抜歯。時間がなかったせいもあり、そのままにしておくと、だんだん抜いた歯の生えていた場所がなくなってきました。(両隣の歯の倒れこみによります。)しばらくして歯の治療を再開したときに、噛み合わせの低くなったままかぶせ治す、という処置をしたものと思われました。Hさんの治療を進めるためには、まずしみる7番より、その手前の歯(6番)のかさ上げをする必要があったのです。もし仮に、治療を7番から行なったとすると、さらに噛み合わせの変化がおき、本来バランスのいい位置ではなく、低く、適当でない位置でかぶせなおしが行われるでしょう。これによって身体のズレは増幅し、最も良い位置での治療終了が望めなくなる可能性が高くなります。
ちなみにHさんはひどい腰痛に悩まされていましたが、治療を終える頃には大幅な症状の改善がみられました。
この治療の順番は、筋肉の反射テストによって知ることが出来ます。
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