平成11年度のデータですが、80歳以上の方の平均残存指数は、約5本。多くの人が総入れ歯で食事している現状です。歯が数本でも残っていれば、もちろん歯みがきで歯の汚れを取り、残った歯をできるだけ噛める状態で、長く残すことが大切です。
「じゃあ、歯がなかったら歯みがきなんてしなくても痛い思いをしなくていいわけだ。」
歯槽膿漏や虫歯でいやな思いをしたことがある人が、こうおっしゃるのをよく聞きます。しかし、全ての歯をなくした方が、「歯が残っているうちに、しっかり治療しておけばよかった。」とおっしゃっていることも、忘れてはいけません。
話を元に戻しましょうか。先月号で、味覚や食感など、歯科が担当する部分の感覚をつかさどる脳の面積が広いことをお話ししましたね。歯のある人は、歯ブラシで口の中をきれいに掃除することが、脳を刺激することにつながります。歯がなくなっても、もちろんお口の中には舌がありますので、ここを柔らかい歯ブラシや舌専用のクリーナーで掃除することが口腔ケアになります。特に入れ歯で硬い食物が食べられない方は、柔らかいおかゆのようなものを噛まずに飲み込むことが多く、舌が白い苔状のもので汚れやすいものです。舌は、特に味を感じる場所ですから、ここを清潔にして味を感じやすくしてあげることが、脳を刺激することにもつながります。
また、お年寄りが注意しなければならないものに、誤嚥があります。誤嚥というのは、食べ物が食道に入らずに気管に入ってしまうことですが、飲み込むために使われる喉(のど)の筋肉が、バランスを崩すことによって引き起こされていると考えられます。この筋肉のバランスを整えるためには、その人に合った入れ歯をいれることが肝要。歯がなくなったら、噛まなくてもいい食事をすれば良いのではありません。身体のバランスを取るためにも、入れ歯は大切なものなのです。こう考えると、入れ歯をいれて普通に物が食べられる状態にしてあげることも、ある意味口腔ケアと言えるかもしれませんね。
なにより、噛める入れ歯で食事が出来れば、食物の栄養素が効率よく身体に吸収されますから、身体の抵抗力も上がり、もし誤嚥を起こしたとしても、ひどい肺炎を患わずにすむ可能性が高くなります。こういった理由で、最近の老人ホームでは口腔ケアが重要視されてきたのです。
くどいようですが、「歯を磨きましょうね。」と声をかけるだけでは口腔ケアとは言えません。
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