2005年5月号のこのコーナーで、「歯の根のできかた」についてお話しました。永久歯の根は、歯茎の上に頭をのぞかせた時点ではまだ出来上がっていません。歯がだんだん生えてきて、反対側の歯と噛み合うようになると、その力を支えられる方向に根が作られていくのです。したがって、同じ場所の歯であっても同じ形の根をしているものはありません。
インプラントを行なうとき、もちろんこの噛み合わせの力に耐えられる設計がなされます。最新の診断機器で、どの位置に、どういう方向に埋め込むかまで細かく設定されます。この設計どおりに人工の根が埋めこまれれば問題はありません。
しかし注意しなければならないのは、この手術を行なうのは人だということです。確実に根を、設計どおりの位置に、設計どおりの角度で埋め込むのは難しいと言わざるを得ません。しかも、インプラントには、歯根膜と呼ばれるクッションの役割をするものが作れません。直接顎の骨に打ち込まれる人工の根は、噛む力を直接脳に伝えてしまう恐れがあります。
これは、靴の底に鉄の板を貼るのと同じです。靴ではその衝撃を吸収する素材を使っているのに、インプラントはそこまで考慮される事はありません。また、人間の噛む力は想像をはるかに超えるほど強いものゆえに、噛むときの顎の骨の変形にまで神経を使わなければ、噛み合わせ上何ら問題のないインプラントは作れないと思います。まして自分の歯の噛み合わせさえ、十分な咬合論がない状態でインプラント治療を行なうなど、不安で仕方がありません。噛み合わせがその人に合った状態でないと、筋肉のバランス異常・骨の歪みなどといった症状を引き起こしてしまいますから。
数年前、某歯科大インプラント科の助教授に、インプラントの咬合について質問する機会に恵まれましたが、私を満足させてくれる回答は得られませんでした。インプラント器具を作っているメーカーの指導医師も同様で、残念に思います。
このような状況で、インプラントは本当に歯科にとっても患者さんにとっても、期待でき 且つ十分満足できる最新治療といえるのでしょうか? |