過去当院で噛み合わせの治療を行ったIさんは、来院前、歯並びはよくないものの虫歯がないので、歯医者にあまり縁のない生活を送っていました。
あるとき歯石と歯の着色を取る為、家の近くの歯医者に行った折、「一本だけ当たりのきつい歯があるので、噛み合わせを調整しておきます。」と言われ、深く考えずに歯を削ってもらいました。
それからしばらくのち、Iさんは腰痛と体調不良を感じ、整形外科と内科に通院するようになりました。しかし、いくら薬をもらって飲んでもよくなりません。そのうち車の助手席に座って乗ることもできなくなりました。道路のでこぼこで車がバウンドするだけで、激しい痛みに襲われるようになってしまったのです。
その後原因不明のまま、大きな病院への転院を余儀なくされ、入院を勧められたころに、家族の勧めで当院に来院することになりました。
初診時のIさんの歯には、右上の小臼歯に、歯の溝がなくなるほどの削りあとがありました。当たりがきついから、という理由で他の歯と同程度の当たりに削られたため、歯に関係した筋肉のバランスが崩れ、結果その筋肉にくっついている骨がずれて、痛みが出ていたものと思われました。
「噛み合わせの調整」というのは、他の歯と同じくらいの当たりにするため「きつく当たっている(高い)歯を削る」ことではありません。たとえ一本だけきつく当たっていようが、身体がもっとも安定する位置に整えてやるべきです。したがって全体的に噛み合わせが「低い」のなら、「高く」かぶせなおすことも必要になります。そしてその判断をする道具として「Оリング」や両手を使った検査法(3in1より)があげられるでしょう。
歯根膜で感じる厚みは30ミクロンです。たとえそれ以下のものであっても、(私たちの意識には上らずとも)身体にはわかっていますし、たった数ミクロンでも、時には体のズレを引き起こす原因になり得ます。一本だけきつく当たっているから、といって、タービンで削るのはもってのほかです。
Iさんはその後、噛み合わせの修正装置を入れて身体を整え、何本かかぶせなおすことで治療を終えました。すべての治療を終えるのに、二年弱ほどの時間を費やすことになりました。
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