原則として、矯正によって歯並びをきれいにしたとしても、後戻り(もとのような歯並びに戻ること。)は若干あるものと覚悟したほうがいいでしょう。それは、身体・筋肉と噛み合わせが完全に調和していないからです。
一般的なことを申しあげますと、歯列矯正を専門に行っている歯科医の方々は、筋肉が骨についていて、その伸び縮みによって身体が動いていると言うことは知っていても、噛み合わせがその筋肉の機能やバランスに大きく作用するということまで知っている人は多くいません。
しかも、私の経験上申しあげるのですが、歯の詰め物の高さが少し変わったくらいで身体がひずみ、異常をきたす場合があるのに、矯正は歯の高さどころか位置まで変えてしまうものです。つまり、矯正をするということは、もれなく身体をひずませることでもあるのです。歯を動かし終わり、その人に合った適切な噛み合わせを患者さんにもたらすことが出来ない時、その患者さんには何らかの身体の不調が残ってしまうでしょう。(その不調が患者さんに感じられるか否かは別ですが。)
仮に顎に痛みがあり、筋肉に何らかの異常が見られる場合に、筋肉のことを何も考えずに矯正を行うことは、自殺行為に近いと私は考えます。さらに身体をひずませることになりかねません。(顎に痛みがあるということは、顎についている筋肉に異常緊張があるということです。)
よく考えてみてください。
歯並びが悪いことによってひずんだ身体が、結果として身体をひずませることによって完治すると思いますか?
確かに、歯並びが悪くて身体がひずんでいるのであれば、歯並びをきれいにすることで身体のひずみもなくなるだろう、と思うのは至極当たり前のことです。現に矯正を行う歯科医の一部の方は、この考えのもと矯正を行っているようです。
しかしこの考えには、そのひずんだ状態で身体を使い、身体が出来上がっていると言うことは想定されていません。曲がった釘をまっすぐに戻そうと思っても、決して元には戻らないのと同様、ゆがんだなりに必死でバランスを保っていた身体に、たとえその人に合った噛み合わせを与えたとしても、その噛み合わせが本当にその人の身体になじむまでには、相当の時間がかかっても不思議はありません。抜歯を伴った長期にわたる矯正なら、なおさらです。身体のバランスがあまりにも狂っていたときには、最悪の場合、身体のひずみをもっとひどくすることだって考えられます。しかも、一度矯正を始めてしまえば、それが身体に合わないからといっても、矯正を始める前の状態に完全に戻すことは不可能なのです。
これでもまだあなたは、矯正によって顎関節症を直すことができると考えますか?矯正だけで正しい噛み合わせを作り上げることができると思いますか? 残念ながら、私はそうは思っていません。なぜなら矯正を行う歯科医師が目指すものは「見た目の美しさ」であって、「身体に合った噛み合わせを作り上げること」ではないからです。
もし本当に矯正によって顎関節症の不快な症状が軽快するのであれば、顎関節症歴三十年の私が真っ先にやっています。
顎が悪く、矯正を考えている方は、まず本当にそれが自分の身体に合った方法であるかを、筋肉反射などで調べてみてからでも遅くありません。自身の身体のことですので、身体が望む治療をするのが賢明です。
(最低限、筋肉反射で身体の情報を正しく取ることのできる医師を探して下さい。)
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