環境戦隊サヌキレンジャー!
  

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金時レッド
環境戦隊サヌキレンジャー! A

 

    はまちブルー登場!
 

 黒塗りの車は、サヌキ県を東西に結ぶ高速道路を失踪中…でなかった、疾走中!

 相変わらずテンションの低い雄平と、対照的にハイテンションの黒川大と書いてひろし。後部座席の端っこに丸まって座り、雄平は恐る恐る言った。

「あの、今度はどこへ行くんですか?」

「県東部の押田町だ。そこに二人目のサヌキレンジャーがいる。」

「…その人も、オレみたいに誰かに推薦されたんですか。」

「いや。」

意味深に笑う黒川。

「聞きたいかね?」

雄平は視線をそらし、首を横に振った。

「ええです。」

「キミと私の仲だ、遠慮しなくてもいいじゃないかね。」

「オレと黒川さんが、いったいどういう仲だと言うんですかっ!」

冷たく言い放ったが、当の黒川は応えてはいない。

「環境戦隊サヌキレンジャーのメンバーと所長という仲だ。」

「黒川さん…所長なんですか。」

「とりあえず、今のところはな。」

突っこむ元気さえなく丸まった雄平に、意味深な笑いを浮かべたまま、逆に突っこむ黒川。

「………。」

「おいおい、ここは『今のところ、っていうのはどういうことですかっ!』くらい突っこんでくれないと!」

「すいません…もー、どーでもええです。黒川さんが所長以外にどういう肩書きを持っとろうが、オレには関係ないですから。」 

「またまた〜。キミもツンデレだねえ。」

『勝手に言うとれ。』

ぷいっ、と反対側の窓を向いた雄平の目にうつる、青い海。瀬戸内海は、今日も穏やかだ。

 目的地、県東部の押田町は、【取る漁業から育てる漁業】を実践した場所で有名である。

 そして黒塗りのあやしい車は、押田町役場前に止まった。今年は、ここではまちの養殖が始まって八十年という、記念すべき年らしい。役場の壁に下がる【はまち養殖八十周年!】の垂れ幕が、田舎の役場に華をそえている。

 役場の正面に、一人の小柄な青年が立っているのが見えた。

「…彼が、メンバー候補だ。」

『モノ好きなヤツやのう…。』

雄平はそう思ったが、彼は予想に反して好青年のようだった。にっこり笑うと、正義の味方よろしく歯がキラリ…と光ったようにさえ思えるくらいに。

「サヌキ県産業振興課の黒川さんですね?」

「イカにも。」

「始めまして、押田町漁業協同組合の伊野倉亮輔です。お待ちしていました。」

雄平の目の前で、がっしりと組まれる手と手。居心地の悪さと、『オレの時には拉致やったのに。』という不満が、当然雄平の機嫌を悪くしている。

 不意に、さわやか青年の視線が自分のほうを向いた。

「…ところで、こちらは?」

「彼はサヌキレンジャーのメンバーだ。秋山くん。」

「いや、俺はただこの人に連れまわされているだけで…。」

けれど伊野倉は、そんな雄平にもにっこりと笑って見せた。

「はじめまして、秋山さん。伊野倉です。もし、俺がサヌキレンジャーになれたら…っていうか、なるつもりなんですけれど、お互い頑張りましょう!」

引きつった笑いを浮かべ、雄平はさわやか青年の手を握り返した。

『……何や、この、やる気は?』

何から何まで、雄平とは逆だ。サヌキレンジャーとしてスカウト(無理やり拉致)されてもまだやる気のない自分と、自ら進んでこのイロモノ戦隊に身を投じようとする伊野倉。

『ようわからんやつ…。』

すると黒川が、雄平と伊野倉の握った手の前に立ち、そこに自分の手を添えて言った。

「よきかな、よきかな。じゃあキミたちはここで、話に花を咲かせたまえ。邪魔者は去ることにしよう。」

「ちょっと待てい!何じゃ、そのお見合いのような展開は。」

「邪推するんじゃない。ここの組合長にあいさつしてくるだけだ。」

意外とまともな答えに、雄平がちょっぴり黒川のことを見直した瞬間――。

「ここの組合長、飲み仲間なんだよう。今日のつまみは何かなぁ?」

うきうきルンルンと、スキップしながら遠くなる背中を見送る二人。その背中が完全に壁の向こうに消えてから、伊野倉が言った。

「じゃあ、お近づきのしるしに僕たちも何か飲みませんか?」

「いや…オレ、でなくて私はお酒が飲めませんので。」

すると伊野倉がまた、きらりと歯を光らせて笑った。

「まさか真っ昼間から、お酒は飲めないでしょう。コーヒー、いかがです?」

「…いただきます。」

 

漁業協同組合の倉庫隅にある休憩室。

「どうぞ。」

伊野倉が差し出したコーヒーカップを受け取り、雄平はちょっと頭を下げた。

「すいません。」

「あやまらなくていいですよ。お気楽にいきましょう。」

「はぁ…。」

カップに口をつけながら、目の前の男を観察する。日に焼けた浅黒い肌、何より笑うとまぶしいくらい光る(ような)歯。雄平自身もどちらかというと日に焼けてはいるが、伊野倉ほどではない。海から吹く風が、ミネラルの作用のせいで肌に深みのある輝きを、オマケしてくれているからかもしれない。雄平がぼんやりとそんな風に考えていたとき。

不意に、伊野倉の声がした。

「秋山さん。」

「は?」

「オレね、今、すっごく感動してるんですよ。」

「感動…って…?」

手にしたマグカップをじっ、と見つめながら、伊野倉は続けた。

「オレ、九州の壱岐出身なんです。――ほら、何年か前に四国国体があったでしょう?その時に水泳の選手としてサヌキ県に招かれて、何となく今までここにいついてしまったというか…。ここのなるい雰囲気が、オレにジャストフィットしたっていうか。」

「はあ。」

「オレの知ってる海は、冬の玄界灘。暗い水面に砕け散る波に、波の花。そこに育つ人間はもれなくどんな困難も体で跳ね飛ばしていくような…いわゆる海の男でしてね。どっちかっていうと、オレはのんびりゆっくりやるのが好きなほうなんですが、周りが海の男だらけなんで一人だけそんなことも言っちゃいられず…。高校のときに、夏しか練習がないだろうから、と思って入った水泳部で、もちろん夏にはプール、冬には玄界灘の寒中水泳、とセンパイに死ぬほど泳がされたあげく、このままだと命がなくなるかも、という恐怖感から提出した退部届けも、センパイにもみ消されてなかったことにされ…。」

伊野倉は、そこで一つ大きく息をつき、遠い目をした。

「そのおかげかそこそこの成績を残し、大学もおかげで体育大学に進めましたが、いつも命の危険を感じていたわけです。――そんな時、サヌキ県からの誘いがあって…。オレは二つ返事でここにくることを決めました。」

カップのコーヒーを飲み干し、伊野倉はいすから立ち上がって、窓のほうに歩いていった。

「ここは、何もかも新鮮でしたよ。冬でも荒れることのない海。そりゃ、夏には赤潮だのサメだの、物騒なことが起こりはしますが、いつも生きるか死ぬかの選択を迫られていた俺にとって、ここはまさに天国、理想郷です!」

「…そんな、オーバーな…。」

「秋山さん、あなたも一度他の場所で暮らしてみるといい。ここがどれだけすばらしくて、住み心地がいいか。…だからオレ、よそもののオレをあたたかく迎えてくれたこの国の役に立ちたくて、サヌキレンジャーに立候補したんです。」

ここは、国でなく日本一狭い県だ、というツッコミを心の片隅にしまいこみ、雄平は言った。

「…伊野倉さん…。」

「すばらしいことだと思いませんか?この手でオレたちの住む町の平和を守れるなんて、誰にもできることじゃない。」

『ああ、歯がまぶしい…。』

雄平が目を細めたときのこと。さわやか青年の表情が、急に厳しくなった。何事かとうろたえる雄平。

 次の瞬間には外へ走り出す伊野倉。その背中を目で追って、ようやく雄平は事の次第を理解した。

「こら〜!何しょんじゃ、このクソがきども!」

三人くらいの子どもが野良犬をつかまえ、海にほうり投げたのが見える。伊野倉の姿を見て、子どもたちはばらばらと逃げ去っていった。犬は、必死で犬掻きをしているが、海に放り込まれたからか動転して、今にも沈みそうだ。

 その時、青い作業着を脱ぎ捨てた伊野倉の体が、見事な放物線を描いて、海に吸い込まれるように消えた。やがて浮かんできた伊野倉は暴れる犬をかかえ、近くの防波堤に作られた階段から助け上げることが出来たようだった。

 雄平は近くにあったタオルを引っつかみ、伊野倉のもとへと走った。全身水浸しの彼の手には、恐怖と寒さで震える犬。

「大丈夫ですか?…しかし、ひどいことをするもんだ。」

伊野倉はタオルを受け取ると、手の中の犬を優しくくるんでやった。

「あ…それ…。」

それはあなたのために持ってきたタオルだ、という言葉を、雄平はかろうじて飲み込んだ。

「ははっ、怒鳴り声だけはサヌキ弁が板につきましたよ。」

そう言った伊野倉の表情が少しばかりくもったのを、雄平は見のがさなかった。

「どうか、したんですか?」

「――あいつらね、近所の悪ガキなんですが…。それぞれに事情があるみたいでね、この界隈でオレしか相手をするヤツがいなくって、時々寂しくなったら馬鹿なことをしにくるんですよ。この間なんか、どこで見つけたのか、でっかいダンボール箱で船を作って遊んでましたが、もちろん沈みますよね。しかたなく釣り船出してもらって救出作業をしました。ダンボールもゴミになるってんで、回収させられましたよ。…今となっては、やつらに関わることの後始末はオレ担当になっちゃってて。」

「それは大変ですね…。」

「いえ、アイツらを教え、導くのもオレらおとなの役目だと思います。正義の味方って、そんなもんでしょう?誰に言われたからやるのでなく、平和が好きだから、自分の持てる力すべてを使っても戦うんです。…でもそれは破壊のための戦いじゃなく、愛を生み出すための戦いだと思うんですよ。――うまく言えませんけど。」

伊野倉の手の中で落ち着きを取り戻した犬が、くんくんとにおいをかぎ、お礼をするかのようにぺろりと彼の鼻先をなめた。何度も、何度も。

「やめろって。くすぐったいじゃないか。」

近所の悪ガキや、野良犬にまで優しい伊野倉。雄平はそこに、ヒーローの本当の姿を見出したような気がしていた。

『さわやかだ――さわやかすぎる…。後光までさしているじゃないか!』

その時、伊野倉の真後ろを、一台のトラックが横切った。単に窓ガラスに太陽が反射していただけなのだったが、雄平にはそんなことは関係ない。押田町のお大師さんだと手まであわしかねないノリである。

そして雄平はふと、近所の子供たちを想った。

『口ばっかり達者で、オレのこと馬鹿にしたり、けなしたりするけど…。』

あいつらはまだ、幸せなのかもしれん。

『オレが手本にならんといかんのかも知れんな。』

ほんのちょっぴりサヌキレンジャーの使命(?)に目覚めたかもしれない雄平の後姿を、うんうんとうなずきつつ木の影から、これ見よがしにそっと見つめる黒川がいた。

 

 そして雄平は、教え諭すと決めたちびっ子たちが、自分のことを【不審者に拉致されて行った頼りないオトナ】だと校長先生に報告したという事実を、まだ知るよしもない。

  和三盆ホワイト…神にかわっておしおきしちゃうぞ!

続く .........。
  

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