環境戦隊サヌキレンジャー!
  

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金時レッド
環境戦隊サヌキレンジャー! E

 

 


 サンメッセというのは、旧鷹松空港跡地に出来た
イベント会場のことだが、その会場がある場所もサンメッセと呼ばれることが多い。今回は恐らく後のほうだろう。三十分ほど、沈黙した車の中で緊張して過ごした雄平は、現場に着いて大きく伸びをした。と、そこへ。

 不意に背中をつんつんされ、のけぞる雄平。と同時に、あの声も。

「秋山くん、み〜つけた。」
「ひゃあ…○※÷□▽+!」

振り返らずとも、こんなことをするのはただ一人。

「黒川さん!もうええかげんにしてください!怒りますよ!」

振り向きざまにそう怒鳴る。案の定、黒川のニヤついた顔が。しかし、すぐ横に伊野倉の顔が見え、その右手が黒川と同じように自分の背中に伸びているのを見ると、ちょっとした脱力感を覚えた。

「まあまあ、そんなにカリカリしないで。なあ、伊野倉くん。」
「そうですね。……にぼし食べんね?」

ポケットからにぼしの入った袋を取り出し、さしだす伊野倉。

「…何でにぼし…?」
「イライラするのは、カルシウム不足たい。コレ、ウチの漁協で作った自慢の逸品で、噛めばかむほど味が出るとよ。」

もしゃもしゃと、にぼしをかじる伊野倉。少し緊張がほぐれたのか、語尾が九州なまりにもどりつつある。

「……ていうか、なんで伊野倉さんまで黒川さんの手下みたいなこと、しとるんですか!」
「だって秋山さん、つんつんされるのがスキやって聞いたと。」
「そんなわけ、ないやろ!」

黒川をじろりとにらんだが、おじさんは結構しぶとい。

「場をなごませただけじゃないか〜。怒っちゃ、や〜よ。」
「まったく!…用もないのに、こんなとこまで呼び出さんとってください。」
「用はないことないよ。会ってほしい人がいるんだな、これが。」
「変な人やったら、本気で怒りますからね!」

すると、黒川はまたにかっ、と笑った。

「じゃ、怒る準備でもしておいてもらおうかな。会ってほしいのはここの教授なんだけど、変じゃないとはとても言えないからね。」
「…黒川さんから見ても、変でないとは言えんくらいの人だとすると…こりゃあ――。」

雄平は考え込み、同意を求めるように伊野倉のほうを向いた。しかし。

「ま、今さらどうにもならんたい。秋山さんも、にぼし食べんね。」

緊張のかけらもない伊野倉。雄平も、とりあえずは伊野倉を見習うことにした。心配して身構えたとしても、それで相手がまともになるわけではない。つまり。

『心配して胃の壁にダメージ与えるくらいなら、ここはひとつ穏便に…。』

この【長いものには巻かれろ】の姿勢が、いちばん自分にダメージを与えているという事実に雄平が気付くのは、一体いつになることやら。

 さて、そんなこんなでサヌキ大学工学部の構内に足を踏み入れた三人。勝手知ったる様子でどんどん先に進む黒川の後ろを、おどおどとついて歩く雄平と伊野倉。それもそのはず、奥に進むにしたがって廊下には監視カメラ、何重もの防犯扉が、ただの大学ではない雰囲気をかもし出すどころか、確信させてくるのだ。

「…オレ、緊張してきたかも…?」

声に横を見ると、伊野倉がにぼしを握りしめたまま、真剣な顔をしている。雄平は、伊野倉も人の子なんだ、と勝手に解釈して(勝手に)親近感を覚えていたが、次の伊野倉のセリフにずっこけた。

「――オレさ、緊張するとトイレに行きたくなるとよ〜!」
「もう、しかたないねぇ。…久利林く〜ん!先にトイレに案内してよ〜。」

緊張感のない黒川の声に反応したのは、壁。何の変哲もない壁の一部がものものしい音とともに開いたかと思うと、矢印が書いてある。

「え…なになに?【といれはこっち】って…!」
「うわ〜、助かった。じゃ、お言葉に甘えて――。」

にぼしの袋を雄平に渡し、あわてて矢印の方向に走る伊野倉。しかし、雄平は黒川とお友達というここの教授が、そんなに素直にトイレに案内してくれるわけがない、と感じていた。

「ちょ、ちょっと待って!」

あわてて伊野倉の手をつかむ。

「何ね?オレ、トイレに行こうと…。」
「わかってますよ。けど、根っからいじめられっ子の俺には、わかるんです。――これは、ワナだ、って。」
「またまた〜。」

伊野倉は取り合わない。

「マンガじゃあるまいし、そんなあほなことする人がおるわけな……!!」

そこで伊野倉の言葉がとぎれた。と、同時に、雄平の目の前から消え去る伊野倉。

『ほら、言わんこっちゃないでしょうが!』

足元に広がる、暗い穴。そこから頼りなく聞こえ、ついには遠くなっていく伊野倉の叫び声。

「た〜すけて〜ぇ…!」

本当ならば仲間のピンチを助けに行くのが、正義のヒーローなのだが、雄平はあえて危険をおかすほどお人よしではない。(薄情とも言う。)

 というわけで、さっそく黒川に罪をなすくりつけた。

「黒川さん!もうええかげんに……!?

振り返ると、そこにいるはずの黒川の姿がない。えっ?と思ってあたりを見回すと、さっき伊野倉が消えた穴の向こう側に、同じような穴があいていて――。

 今まさに、そこに入ろうとしている黒川が見えた。

「く、黒川さん!動かんとってください!」
「何で?」
「何で?って、さっき伊野倉さんがワナにはまったの、見たんとちゃうんですか!ちょっとくらい警戒してくださいよ。」

すると黒川はけらけらと笑った。

「心配ないって。【教授の部屋はコチラ】って書いてあるじゃないか。」

取り合わない黒川に、普段は事なかれ主義の雄平もさすがにキレた。

「伊野倉さんはさっき、トイレの案内板どおりに歩いていって、落とし穴に落ちたんです!」
「だ〜いじょうぶ。私は何度もここに来てるんだから。」

…という言葉がおわるか終わらないかのうちに、やはり黒川の姿も雄平の視界から消えた。

「――だけん言うたのに。」

雄平が頭を抱えたとき、どこからともなく不気味な笑い声が聞こえてきた。

「ふっふっふ、ふが三つ……さすがだな、金時レッドこと秋山雄平。この私の作ったワナに引っかからないとは、サヌキレンジャーのリーダーだけのことはある。」
「頼むけん、その肩書きでオレの名前を呼ばんとってくれ。」

すると一瞬口ごもった声の主は、竹○直人並に声の調子を変えた。

「…ノリが悪いな〜もう。ここはせめて『誰だっ!?』ぐらいおののいて振り返ってくれないと〜。」
「ノリが悪くってすいませんね。もともと
KYなんで、気にせんとってください。」

半分ふてくされて振り返る。…と同時に、思わずそこを飛びのくはめに。

「なっ、何ですか、あんたはっ!」

雄平が見たのは、あやしい木のお面をつけ、全身にツタをからませた怪人だった。さては、悪の組織の怪人が、いやがらせにこんなとこまで出向いてきているのか、と身構える。

「これは失敬。私の名はパーントゥ。南の島宮古島で厄払いの仕事をしておる。決して怪しいものでは――。」
「怪しくないわけないでしょうが!…さてはお前、ゴミゴミ団とやらの怪人だな?」
「違うって言ってんのに。そ〜んなわからずやさんには、えいっ!くさい泥攻撃!」

ツタの間から取り出したビニール袋から、黒いものが飛んでくるのと同時に、怪しい怪人の後ろのドアから、叫び声が上がった。

「きゃ〜っ!教授、それはやらない約束だったのに〜!」
「えっ?教授?」

一瞬その声に気をとられた瞬間、雄平の顔面にその“くさい泥”がべたっ。

『もしかすると、この泥に触れるとヒットポイントが下がるとかいうダメージがあるかも?』(ゲームのやり過ぎ)

注意深くその泥をぬぐい、観察。確かにくさい。しかし、それだけだ。

今度はあやしい怪人パーントゥを見る。パーントゥは……。

――白衣を着たお姉さんに、怒られていた。

「もう!部屋が汚れるんですから、それはやっちゃだめって言ったでしょう!」
「だって、横岡くん。パーントゥに泥はつきものなんだよ?それに、この泥は不思議な泥だから、つけられると厄払いになるのにっ。」
「だったら教授がお部屋の掃除してくださいねっ!はい、ぞうきん。」
「よこおかく〜ん。」
「知りません!」

冷たくあしらわれる、怪人パーントゥ。雄平は恐る恐る話に割って入った。

「あのぅ…もしもし?コレはいったい?」

白衣のお姉さん(といっても、雄平と同じくらい)は、パーントゥに向けていたキビシイ顔のまま雄平のほうを向いた。一瞬、びくつく雄平に、顔を二、三度なでくり回して大魔神並みにインスタントの笑顔を貼り付ける。さすが、プロというか、女の人はタフだなあと感心。

「すいません。今日いらっしゃる予定の、黒川さんですね?」
「あ、いや、オレはその…付き添いの者ですが。」
「…そうですか。お互い大変ですね、こんなあほ…いえ、かわった上司の下で働いてると、本当に毎日疲れるというか。」
「毎日刺激があって楽しいと思うんだが?」
「教授は黙っといてください!」

しゅん、とするパーントゥ。

「そこまで言わなくてもいいじゃないかぁ〜。」
「…あの、ちょっとお伺いしますが、さっきからこの怪人パーントゥのことを、【教授】と呼んでらっしゃいません?」

恐る恐る、そう言うと、お姉さんはため息をついた。

「そうなの。この人が、その筋では有名な久利林教授なのよ。…頭はいいけど、だいぶん変わり者で。」
「人と同じことをやっていたら、なかなかトップにはなれないということさ。」
「だからって、変なお面かぶって、ツタのミノムシになって、くさい泥までばらまかれたらたまりません!だいいち、こんな怪しい人を教授だなんて紹介しなければならないのは私です!恥ずかしいじゃないですか。」
『めっちゃ、ようわかるわ…その気持ち。』

“類は友を呼ぶ”ということわざを、あらためて実感した雄平だった。

 
 さて、やっとのことで合流してきた黒川と伊野倉に並んで、研究室の片隅に置かれた応接セットに腰をおちつけた雄平だったが。

「いや〜、久利林くん。まんまと引っかかってしまったよ。」
「あそこまでみごとに引っかかってくれるとは、黒川くんも隅に置けないねえ。」

はっはっはっ、となごみまくる二人。ふてくされたまま、横を向いている雄平に、お気楽な顔をした伊野倉が言った。

「…秋山さん、どうかしたと?何かにおうんだけど、おなかの調子悪いんじゃなか?トイレに案内しようか?」
「伊野倉さんが案内されたトイレはごめんです。あえて言うなら、腹の調子が悪いんでなくて、むしろ腹が立ってるだけ。」

その間にも、黒川と教授の会話ははずみにはずんで、なぜか最近のアメリカ大統領選挙の話になっている。さすがに、雄平もキレた。

「もう!そんな世間話聞かせるために、俺らを呼んだんですか?」
「いや。それは違うな。」

パーントゥこと、久利林教授はまじめな顔をしてそう言ったが、首から下が怪人のままなので、いくらまじめな顔をしても場違いはなはだしい。

「違うって、どこがどう違うんでしょうね?」
「まあ、コレを見てもらおうじゃないか。――横岡くん。」

パチン、と指を鳴らして呼んだ助手のお姉さんは、相変わらず不機嫌だ。

「もう、うれしげに呼ばんとってください。何ですか、その指パチンは!」
「そこまで言わなくてもいいじゃないかぁ。頼むから、例のもの用意してよぅ〜。」

助手にぺこぺこする教授。

「しょうがないですね。もう。」

横岡さんが向こうの部屋に引っ込むと、程なく目の前にスクリーンがするすると下りてきた。

画面に映る数字、3…2…1…でスタート。

そこには、特撮ヒーローがいた。雄平も小さな頃から慣れ親しんだ変身モノだ。ヒーローは腕時計に似た通信機で連絡を取り合い、携帯電話でポーズを決める。そして、次の瞬間、特殊スーツに身を固めて怪人をばったばったとなぎ倒す。

『そう言えば、オレもあこがれたよな、ヒーローに。』

思わず画面に見とれていた雄平。不意にパーントゥから話を振ってこられた。

「秋山くん、こういうの好きだろう?」
「そりゃ、ね。…男の子はみんな小さい頃に、こんな番組見て育ちますから――。」

あげあしをとられないように、注意深く言葉を選んだ。

「――もし、こんなヒーローになれるとしたら?やってみる気はあるかい?」
「そんなあほな話…。」

そう言いかけて、相手を観察する。格好はともかく、その目の輝きは少なくとも嘘をついている風には見えなかった。伊野倉も、身を乗り出して話に聞き入っている。どうやら彼にとっても、その話は魅力的なものなのらしい。

「…冗談、じゃない、ですよね?」
「もちろん中段でも花壇でも、ましてや中断でもないし下段ではもちろんない。」
「でも、そんな夢みたいな話、信じろというほうがムリでしょう。」

    続く .........。

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