環境戦隊サヌキレンジャー!
  

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金時レッド
環境戦隊サヌキレンジャー! B

 

    和三盆ホワイト登場!
 

   さて。

 伊野倉に見送られた黒塗りの車が、すべるように発車した後のこと。さっさと帰りたい雄平だったが、やっぱりまだ車のなかに押し込められ、次のスカウト活動に連れまわされている。

『俺って、このままいいようにこき使われるんやろうか…?』

ムチを持った黒川に追い回され、ワケのわからんゴミゴミ団とやらに戦いを挑まされる自分。真っ赤な変身スーツもどきを着せられたあげくに、ちびっ子にうしろ指をさされ、大笑いされている自分…。

 もっとかっこいい妄想をすればいいのだが、拉致されて連れてこられた手前、必然的にマイナスイメージの妄想しか出てこないのが悲しい。

『どうせオレってば、四重苦やし。』

近所のちびっ子に言われたことを根に持つ雄平も、相当大人気ない。

 そうこうしているうちに、車が止まった。

「秋山くん、着いたよ。」

にへらっ、と笑った黒川。その笑いの意味がわからないまま、窓の外に目をやる。

「……三盆松高校…??」

車は確かに、三盆松高校の正門前に止まっていた。

「次のサヌキレンジャー候補は、ここにいる。」

『ということは、まさか――!』

雄平は黒川に詰め寄った。

「アンタ、勉強にスポーツに大忙しの高校生を拉致して、イロモノ集団に引っ張り込む気か!」

「拉致とは人聞きの悪い。協力をお願いしてるだけじゃないか。」

「!――どの口がそんなこと言いよんじゃ!!」

「この口。」

黒川がタコのように口を突き出したのを見て、逆に雄平が飛びのくはめに。さすが年の功、若者(…?)の扱いには長けている。

「とにかく接触を試みようじゃないか。この任務を引き受けるか否かは、彼女次第ということで。」

「つうことは、じょしこうせい…?」

「やっぱり華がなければ、誰も注目してくれんからねえ。むさいオッサンの中に女子高生がいるだけで、自然と心がなごむってもんだ。」

一人悦に入っている黒川。雄平はボソッと言った。

「…そんなむさいオッサンの中に入って活動してくれる、奇特な女子高校生がおったらいいですね。」

「――何か言ったかね?」

「いいえ別に。」

“むさいオッサン”と言われたことを根に持っているのか、雄平の物言いは前にもまして冷たい。しかし、黒川も一筋縄ではいくわけもなく――。

「それじゃ、秋山くんは裏門に回ってくれたまえ。この子を見つけたら、すかさずスカウトしてくるんだよ。」

手渡される一枚の写真。そこには、黒川が言ったように結構かわいい女の子がうつっていた。

「へぇ、意外とかわいいじゃないですか。」

思わず本音が口をついて出た。もちろん、黒川の突っ込みのえじきになる。

「手を出しちゃだめだよ。…もちろん、“田舎のものさしではかれば何とか二枚目”の秋山くんを気に入ってくれるかどうかは、時の運だけどね。」

へらへらと笑う黒川。雄平は、殺意をこぶしの中に握りしめ、頭の中で数字を数えた。おちつくためのおまじないらしい。

『そんなうわさ話まで聞いていやがったのか。…このオヤジ、いつか殴ってやる!…けど今はやめとこう。全部終わったら、絶対にっ!』

そんな事を考えながら必死で数を数えていると、急に体が軽くなり…次の瞬間には痛みが襲ってきた。どうやら裏門に到着していたようだ。雄平は体よく黒塗りの車から放り落とされていた。

 前のめりにコンクリートとキスをするはめになった雄平の頭の上から、黒川の声が降ってくる。

「じゃあ秋山くん、ここは任せたよ。その子を見つけたら連絡してくれたまえ。」

「連絡、ってどうせえというんじゃ!」

「今どき小学生でも持っている携帯電話でしたらいいじゃないか。それとも、秋山くんは携帯電話を持っていないとでも?」

おっくれてる〜!という目をしながら言う黒川。カチン、ときて、言わなけりゃいいのに反論。

「失礼な!オレやって携帯の一つやふたつ、持っとるわ!」

…とは言ったものの、携帯なんてひとつあれば充分。ジーパンの後ろポケットから、この間買い換えたばかりの新しい携帯をこれ見よがしに取り出して見せた。すると黒川は、待ってましたとばかりにすばやくそれを奪い取ると、自分の携帯ナンバーを登録し、雄平に放ってよこした。

「何すんですか、オレの携帯――!」

「登録しといたから、そこにかけてね。」

アドレス帳に、しっかりと登録された【サヌキレンジャー長官・黒川大】の文字。携帯を思わず叩き壊そうとしたけれど、やっとのことで思いとどまる。

『いやいや、短気は禁物。これはオレの自前なんやけん。』

怒りをなんとか押し殺しているうちに、車は静かに発車し、見えなくなった。

「じゃあ、頼んだよ〜。」

の声を残して。

「…普通、ナントカ戦隊の連絡手段は、腕時計型の通信機とか…。最近じゃ変身も携帯もどきでするくらいやのに…。」

意外とヒーロー戦隊にくわしい雄平である。黒川が聞いていたら、突っこまれること間違いない。

『とにかく、やなあ。この子を探して、それからの話や。』

一人っきりのチャンス、今のうちに逃げればいいのだが、頼まれると嫌とは言えないお人よし。置き去りにされた裏門前で、ひたすら待つ。もちろん下校途中の高校生たちに、不審な目つきで見られたあげく、ひそひそ話などされた日には、勝手な言い分だがあれほど嫌っていた黒川がいてくれたら…なんて思ってしまう。

「いやいや、イカンイカン。こんな気弱では、近所のちびっ子の手本にはなれんぞ、雄平!」

自分で自分を励ましてみた。しかし、高校生は容赦がない。

「うわ〜何、あの人。こんな真っ昼間から、ひとりごと言いよるわよ。」

「アブナイ人とちがうん?」

「え〜?意外とまともそうなのに?」

「何を言いよん!そんなんが一番あぶないんやけん!」

「ふうん、そんなもんなんや。」

「――なんか、含みのある言い方やなぁ。」

「だって、おかしい人やったら、こんな聞こえよがしのうわさ話、聞く前から怒っとるんとちがう?…どう見ても、必死で悪口に耐えとるカンジしかせんけど。」

話がひとしきり終わったところで、雄平は顔を上げた。自分のことを悪く言わない女子高生とは、いったいどんな子なのか見てみようと、決死の覚悟で顔を上げたのだが。

 そこには、見たことのある子がいた。正確には、さっき黒川に渡された写真のかわいい子がいたのだ。なんというご都合主義!(しかしこの辺でいい目をさせておかないと、主人公不在のまま物語を進めなければならなくなるので、読者には目をつぶっていただこう。)

「き、キミの名前は?」

「うわ、いきなりナンパ?」

ギャラリー無視で、話は進む。

「…人にものを尋ねるときは、自分からって学校で教わらんかったですか?」

「あ…ごめん。オレは秋山雄平と言います。実は今日……。」

そこまで言って、雄平は考えた。

『どなん言うて勧誘したらええんじゃ、あのイロモノ集団に!』

「今日?」

ちょっと首をかしげた仕草さえかわいい。ええい、ままよとばかりに、雄平は言った。

「今度、サヌキ県の特産物をPRする組織が出来て、実はオレも今朝拉致…いや、スカウトされたとこで――。」

「秋山さんの作る特産品って?」

「オ、オレはニンジンを作ってるんだ。金時ニンジン、西洋ニンジンでなくて、赤いヤツ。」

必死で説明する雄平に、彼女は笑って答えた。

「私、芳田麻衣といいます。サヌキの特産品なら、私のアルバイト先、というかおばあちゃん家なんだけど、見てもらったほうがええんとちゃうかなあ。」

「ちょっと、麻衣。大丈夫なん?」

容赦ない友達の心配をよそに、当の麻衣は自信ありげに笑った。

「大丈夫。私、人を見る目だけはあるけん。」

 

 ぞろぞろと、女子高生の集団が田んぼのあぜ道を歩いている。少しおくれて、雄平がとぼとぼ歩いている。田んぼと女子高生、一見似つかわしくないが、ここサヌキ県では妙にマッチして見える。

 時折聞こえる、容赦ない会話に、さっきから何度ため息をついたことか。

「なあ、麻衣。ホンマにかまんの?」

「何が?」

「ああいうんは、最初にガツンとやっとかんかったらつけあがるんやけん。」

「大丈夫や。もう、みんな心配性やなあ。」

「だって、麻衣は新体操部にとって大事な人やもん。」

耳ダンボの雄平。

『新体操部なんや…。』

新体操、という音の響きで、まずピンク色のレオタードのイメージが雄平の頭の中をいっぱいにする。(なぜピンクかは、わからない。)

『そんで、棒の先に白い布つけたようなものを振るんやったっけ?』

くるくると、布を回しながら踊るレオタード。

『…いやいや、レオタードでのうて…。』

勝手に妄想する自分に喝を入れたが、時はすでに遅かった。視線を感じてふと我に返ると、女子高生のきついツッコミ。

「アブナイ目つきして、何考えよんかいの。」

「絶対、レオタード想像しとったわよ。」

あわてて否定しようとしたが、事実ピンクのレオタードを想像していた手前、しどろもどろの返答しか返せない。

「そっ、そんな…ことは、想像してないしっ。」

「嘘ついたらいかんわ〜!めっちゃアブナイ顔しとったもん!」

「断じてしてない…!ピンクのレオタードなんか!これっぽっちも!」

「うそっ!なんでピンクなん?信じられんわ!」

「麻衣のレオタードがピンクなん、何で知っとん!?あぶな〜!」

 その時、横のほうでピンク色のものが動いた。えっ?と思ってそっちを見た雄平の網膜に、淡い桜色のレオタードを持った麻衣の姿が映る。

「ピンクっていうか、どちらかと言うとこれ、桜色なんやけど。」

「ちょっと、麻衣!」

友達がピンクのレオタードをひったくるのと、雄平がぶっ倒れるのとがほぼ同時だった。

「あらっ?」

「刺激が強すぎたんちゃう?」

田んぼのあぜ道で鼻血出して昏倒している雄平。やはり雄平には田んぼが似合う。

「もう、人からこうて遊ぶんやめような?」

「だって、見たそうやったけん。」

「ホンマに、麻衣は天然やなぁ。…もう、行くで。」

「…でも、この人どうするん?」

麻衣がそう言ったものの、女子高生はたいていが冷たい。

「もちろん、放置する。そしたら頭も冷えるやろ…見せしめじゃわ。」

「…ええんかなぁ?」

かくして雄平は、田んぼのあぜ道でお昼寝をするはめになってしまった。しかも、せっかく見つけたサヌキレンジャー候補の高校生にも逃げられて――。

   

強引に続く .........。
  

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