環境戦隊サヌキレンジャー!
  

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金時レッド
環境戦隊サヌキレンジャー! @

    この物語はフィクションであり、地域の描写、
その他もろもろから思い当たる県があったとしても、
それはすべてあなたの思い過ごしで、実在の県とは
ほんの少ししか関係ありません。

   

金時レッド登場!

 瀬戸内海から、乾いた風が吹いてくる。

 その昔、歴史の教科書にも出てくるような高僧をはぐくんだこの土地は、今も変わらず穏やかで、そこに住む人々も相当のんびりしている。日照り以外はたいした災害がないことさえ、「はあ〜、おだいっさんのおかげやの〜。」と、信仰の対象としてしまう土地柄であるから、もちろんこの広いニンジン畑で汗を流しながら働いている青年もまた、やっぱりのんびり屋さんだったりする。

 遠くで、お昼を知らせるサイレンが鳴った。年寄りたちには、「空襲警報みたいやけん、好かん。」と不評なこの合図も、だだっ広い畑の真ん中にいるこの青年にとっては、腹ごしらえの時間を知らせてくれる大切なものである。

 青年は、肩に引っ掛けた、【竹山農協】と大きく刺繍されているタオルで汗をぬぐい、畑のあぜ道に腰かけると、コンビニで買ったと思われるおにぎりを取り出した。最近、全国的に農業後継者を悩ませている【お嫁さん不足】の波は、こんな日本の片隅のニンジン畑にまで押し寄せてきているのだが、根がのんびり屋さんだから「そんなん、関係ないやろ。」とばかりに気に留めてもいないらしい。

 青年の名前は、秋山雄平。田舎のものさしではかれば、何とか二枚目の部類に入る(かもしれない…。)当年とって二十六才の農業青年である。

 

 秋とは名ばかりの太陽が、頭の真上でぎらぎらしている。時折吹く風に秋の気配は感じられないが、空はずいぶん高く澄んできたようだ。

 雄平は空を見上げ、その視線を目の高さに戻していった。遠くに海と、そのすぐ向こうに対岸の山が見える。そして、その視線を自分のすぐ足元に戻すと、そこには小さな緑の芽が。

「はよ、大きになれよ。」

近所の子供たちにするように、やっと芽を出したニンジンの芽を、つん、とつついてみる。雄平には、ニンジンの妖精が微笑んでいるように思えて、自然と目尻が下がってしまうのだが、この人畜無害な妄想も、他人が見ると不気味以外のものではない。ちょうど通りかかった下校途中の小学生が、大きな声で聞こえよがしにウワサしている。

「…今日も雄平兄ちゃん、妄想族や。」

「早うおよめさんもろうたらええのにな。そしたら変な想像せんでようなるのに。」

「結婚の前に、兄ちゃんでええ、言う人みつけんといかん。」

「けどな、会社に行っきょる人でさえ、結婚できんらしいで。兄ちゃん、一人っ子の長男で、めちゃくちゃハンサム言うわけでないし、しかも家が農家や言うたら……ヘレン・ケラーも真っ青の四重苦やぞ。」

「………悪かったな、ヘレン・ケラーも真っ青の四重苦で…。」

雄平は、情け容赦のない最近の小学生に言った。

「ええんや。まだまだ兄ちゃんは若いんやけん。」

「けど、四捨五入したら三十歳やんか。」

「歳は四捨五入せんでええ!」

クモの子を散らすように、田んぼのあぜ道を走り去っていく黒いランドセルに、雄平は叫んだ。

「気つけて帰れよ!知らん人についていったらいかんぞ!何かあったら、大声で叫ぶんぞ!」

手を振りながら遠くなるランドセルを見送って、あたりを見回す。

 最近この田舎でも、【不審者】が出没するらしい。上から下まで、全身黒ずくめの二人組が、電柱の影からこちらをのぞいていると聞く。緑と茶色と、水色がほとんどの土地で、全身黒ずくめの人間がいた日には、恐ろしく目立つとしか言いようがないのだが。

『まあ、そんなまぬけなやつがおったら、お目にかかりたいもんや。』

雄平は他人事のようにそう考えていたが、少し離れたところの電柱の影からそんな怪しい黒ずくめの男がこちらを見ていようとは、思いつきもしなかった。

 

 夕暮れ時になって、ようやく家路をたどる。手には今日の収穫、間引いたニンジンのふたばをつめこんだ袋と、コンビニの袋を持って。もちろんコンビニ袋には、昼に食べたおにぎりの包み紙が入っている。

「ただいま。」

雄平は、父母との三人暮らしだ。父昌平は時折畑を手伝う程度で、普段は坂入市役所に勤務しているから、広いニンジン畑を管理しているのは母と雄平二人。…と言いたいところだが、母は母で習い事だの、農業婦人部の活動が忙しくて、実質雄平一人がニンジンを作っていると言っても過言はない。

「おう、お帰り。」

父はもう一杯引っ掛けているらしく、上機嫌だ。

「程ほどにせんといかんで。どうせでも飲みすぎなんやけん。」

「硬いこと言うな。お父ちゃんはこの晩酌だけが楽しみなんじゃ。」

そこで、ほろ酔い加減の父は、急に真面目な顔をした。

「…そうそう、今日な、県庁から妙なアンケートが回ってきての――。」

「ふうん、どんな?」

どうせたいしたことないだろう、と決め込んだ雄平は、台所に向かう。しかし雄平の後ろから追いかけてきた父の声は、意外なものだった。

「特産品を作っりょる、若い農業後継者を教えてくれえ、いうもんやったけん、お父ちゃんこっそり、お前の名前書いてやったぞ。」

「はぁ?」

台所に立っていた母に、ニンジンの芽が入った袋をさしだしたポーズのまま、雄平は口をぽかんと開けた間抜けな顔で振り返った。

「何でそんないらんこと、するんや。」

「いらんこととはなんや。お父ちゃんは、自慢の息子をみんなに紹介したかっただけじゃ。」

据わった目の父は、機嫌を損ねると始末におえなくなる。『ここはひとつ、おだてて気持ちよく寝てもらったほうが、あとくされがない。』と考えた雄平は父の前に座り、わざとらしいなと思いながらも、ビールのびんを父に差し出した。

「…まあ、まあ、一杯いくか?お父ちゃん。」

「おう。気がきくでないか。」

たちまち上機嫌になる父。で、雄平は考えた。

つい最近、あたらしい県庁ビルを作った県に、廃れていく農業を支援する金があるはずがない。今さら何のためにそんな無意味なことをするのか?

 しかし、普段からあまり使うことのない固い頭からは、ナットクできる答えがすんなり浮かぶわけがない。難しい顔をしていると、横から皿が出てきた。母多美だ。

「柄にもなく、難しい顔しとんでないわ。これ食べて、はよ寝まい。」

皿の中身は、ニンジンの芽のおひたし。ひそかに雄平の好物だったりする。

「うん。そうするわ。」

「…ほんでの、さっきの話やけど、そんな大層なもんとちゃうらしいで。」

「どういうことな?」

「うちだけやのうて、県全体に募集がかかったんやと。うわさでは、どっかの町で、五十六歳の人が推薦されたみたいやし。」

ニンジンのおひたしをバクバク食べながら、言う。

「五十六歳のどこが青年や。」

「そこはよっぽど、お年寄りが多いんとちゃうん?…まあ、そんな感じやけん、気にせんことやわ。それよりな。」

母は、まじめな顔をした。

「お母ちゃん、それより不審者のことが気になるんよ。」

「…黒ずくめの二人組…いうやつか?」

「なんぼここらが田舎や言うても、犯罪だけは都会と変わらんけんな。注意しとってよ。」

「わかっとるわ、そのくらい。仕事の合間に畑から目、ひからしとくけん。地域の子どもは、俺ら大人が守ってやらんといかんけんの。」

使命に燃える雄平に、母は変な顔をした。

「何言うとんかいのこの子は。お母ちゃんが心配なんは、あんたや。あんたホンマに頼りないけんの。悪いやつに拉致されて連れていかれんかと思うて。――気つけようで。」 

そう言い置いて、台所に戻る母の後姿を見ながら、雄平はボソッ、とつぶやいた。

「…俺、そんなに信用ないんか…。」

 

 翌日も、いい天気だった。

 芽が出たばかりのニンジンを枯らさないために、この時期必要なのは適度な水分だ。朝早くから畑に出ていた雄平は、広い畑の中にまんべんなく水をかけるために埋め込まれている、スプリンクラーを止めて回り、ようやく一息ついた。

 折しも通学時間。畑のあぜ道を、子どもたちが元気に登校していくのが見える。しばし手を休め、あたりに気を配ることも忘れてはいない。

「雄平兄ちゃん、おはよう!」

「おはよ!しっかり勉強してくるんぞ!居眠りするなよー!」

「兄ちゃんでないけん、大丈夫や!」

毎日畑で居眠りしているわけではないのだが、たまたまぼんやりしていたのを、誤解されたようだ。かといって、むきになってちがう、と言ったとしても、結局は【雄平居眠り事件】のウワサが否定されるわけでもない。むしろ、「あんな必死に言い訳するんは、もっとやばいことをしとったに違いない。」とばかりに、小さなうわさ話がその辺を一周して戻ってくる頃には、とんでもない尾ひれをくっつけられて、化け物となってしまう可能性のほうが大きい。

『ここはひとつ、穏便に…。』

と、引きつった笑顔を口の端にくっつけた矢先のこと。

 畑のあぜ道を疾走してきた、一台の黒塗りの車。登校途中の小学生のかたまりの少し手前で急停車する。いつもは生意気な小学生も、あまりにも急のことで、立ちすくむしかできない!

 雄平は、これ以上ないというスピードで畑の中を走り、小学生と車の間に立ちはだかった。

「……雄平兄ちゃん!」

「だ、大丈夫や。俺がついとるけん!」

ガラスまで灰色のシールド付きの車のドアが開いた。そこから降りてきた、黒づくめの男が、もったいぶったように雄平の前まで歩いてくる。

「な、何や!あんたらは。し、小学生に何する気や!」

内心びびりまくっている雄平。しかし、子どもたちの手前、逃げるわけにはいかない。もしそんな事をしようもんなら、【雄平畑で居眠り】どころか、【雄平敵前逃亡】のうわさまでその辺一周の旅に出る羽目になるだろう。そのウワサが自分の耳に届く頃には、どんな化け物になっているのか。頭の固い雄平には想像もつかないが、きっと二度と表に出られなくなるくらい、ひどいに違いない。

『もしかしたら、【雄平人買い商人に小学生を売る】とか…。【雄平小学生と引き換えに悪魔に魂を売る】になったりしたら、俺もう二度とおてんとさんの下でニンジン作れんようになるかも………。』

 妄想発動中の雄平。その世界から雄平を引き戻したのは、意外にも目の前の黒づくめの男だった。

「秋山雄平くん…だね?」

「そっ、そっ…そうだ、ったら?」

「すまないが、我々と一緒に来ていただこう。――なあに、手は取らせんよ。」

「えっ…?お、オレぇ〜???」

あっけに取られる小学生の目の前を引きずられていき、車に押し込められる。と同時に、来たときと同じスピードでバックし去っていく車。

「たぁすぅけぇてぇぇ〜……。」

遠ざかる雄平の叫び声が聞こえなくなり、ついでに排気ガスのにおいと黒塗りの車が見えなくなって初めて、近所の小学生は顔を見合わせた。

「兄ちゃん、拉致されたんちゃうか…?」

「ええ大人が、恥ずかしいのー。」

「どうする?」

「そうやのー、普通の大人やったらほっといてもええかしれんけど、雄平兄ちゃんやけんのー…。」

「とりあえず、校長先生に言うとくか。」

小学生の集団が、きりっとした顔つきで小学校に走って行った。

 あとに残されたニンジンの芽は、何事もなかったように風にそよいでいる。雄平の手入れのおかげで、小さな葉の上に七色に輝く水滴をのせて。

 

 さて。

 拉致された雄平は、その辺の道路を走っていても誰も近づかない、怪しい黒塗りの車の中で、ひとりドキドキしていた。現に、この車の周りだけ妙に他の車がいない。

「…あ…あの?」

隣に座る黒ずくめの男が、意外にもあっさりと返事をした。

「申し遅れたが、私はこういう者だ。」

差し出したのは、一枚の名刺。そこに書かれていたのは…。

「…サヌキ県、県内産業振興課課長…黒川大?」

「黒川大と書いて、くろかわひろしと読んでくれたまえ。」

「その、黒川大と書いてひろしさんが、何でこんなことを?」

快調に飛ばす、黒塗りの車。その中で漂う、いや〜な重い空気。沈黙の時間を作りたくなくて、雄平は疑問を口にした。

「…県庁の職員さんが、何で拉致なんかするんです?俺、ニンジンの世話の途中で…。」

「朝の仕事が終わったところだったのでは?我々は、県内の産業を活性化するための役人だから、決してキミの仕事に差し障ることをするつもりはないのだ。」

「…何でそんなん、わかるんですか。」

ちょっとむっとして言い返す雄平。だいいち、ニンジンのにの字も知らんやつに、ニンジンの世話がどうのこうのと言われたくはない。確かに朝のニンジンの世話はひと段落したところだったけれど、黙ってりゃわかりっこないと思った矢先のこと。

 手元の、これまた黒いカバンから取り出されたA4サイズの紙には、なにやらびっしりと書き込まれている。

「――昨日の朝、各市役所にメール配信した後すぐに、坂入市役所からメールが戻ってきてね。それからすぐにキミの一日を調べさせてもらった。ニンジンをこよなく愛する好青年という触れ込みは、間違いなかったな。」

…いやな予感。

それと同時に思い出される、昨日の夜の情景。

上機嫌のお父ちゃんが言った、気になるアンケートのこと。そしてお母ちゃんの話していた、黒ずくめの不審者のこと。

何だかこれすべて、一つの意図でつながるような気がしないか??

『この人がもしかして、農業青年を紹介して欲しいというメールを配信したとして…そのメールにお父ちゃんが、俺の名前書いて返信したとしたら…ほんで、昨日一日このオレが黒ずくめのストーカーに監視されとって、今日拉致されたんか……?』

この妄想が、妄想で終わればよかったのだが、今日ばかりはどうもその妄想が大当たりのような気配がする。

 雄平は、できるだけ嫌味っぽく言った。

「そんで、県内産業振興課の方が、オレをどこに連れて行こうというんですか。」

「…あそこだよ。」

黒川大の指さすほうにそびえ立つ、鷹松市のビル群。そしてそれよりも更に高いガラス張りの建物。最近立て直しされた県庁庁舎がそこに見えた。

 車はやがて、その庁舎の正面ゲートをくぐり、奥へと入っていく。日本中でいちばん狭い県だけあって、県庁庁舎も狭い土地に効率よく場所をとるために、高く作られている。もちろんこの庁舎の駐車場も、もれなく高く作られているわけで、庁舎のもっとも奥の部分に立体駐車場がある。

車は、その駐車場の前のターンテーブルの上に静かに止まった。

 駐車場の管理人に、運転手がなにやら合図をしたとき、車ががくん、とゆれた。それと同時に、車が地面に吸い込まれていくではないか!

「うわっ!ちょっと!これっ…!」

車の中で騒いでいるのは、雄平ただ一人。窓ガラスに張り付いて、遠くなる地上の明かりを目で追うも、無常にもその上で別のターンテーブルがせり出してきて、あたりは真っ暗になった。こうなってはもう、流れに身を任せるしかない。

 やがて、もう一度がくんと車がゆれた。

「降りたまえ。」

黒川大の声に、しぶしぶ車を降りる雄平。

 突然明かりがともったそこは、秘密基地…だった。

「な、何すか、ここは。」

「何に見える?」

意味深に笑う、黒川大と書いてひろし。雄平もやけくそで答えた。

「そら、特撮ものの…ヒーロー戦隊の基地とか…?」

壁を埋めるコンピューターに、明かりがチラチラ灯るのが見える。その横には、これまたでっかい(多分)液晶ハイビジョンモニターに映された、サヌキ県全図。そして、メンバーが集合するだろう、大きな丸いテーブルに置かれた、パソコン端末。ちょっとドキドキしながら、黒川を見る。

 「この現代に、そんなマンガみたいなことを言うなよ。」と、できれば笑って否定して欲しかった雄平だったが、黒川の顔が急ににっか〜っと笑ったのを見て、腹をくくった。

『やばい、このおっさん、マジだ…。』

「そう!ここは県庁庁舎の地下に作られた、サヌキレンジャーの秘密基地なのさ!」

しおしおとうなだれる雄平の目の前で、得意そうに笑う黒川。雄平はぼそっと言った。

「サヌキレンジャーって、何や、もう。」

地獄耳の黒川は、雄平のひとり言をしっかり聞いていて、ご丁寧にあのフレーズで説明してくれた。

「…説明しよう。サヌキレンジャーとは、サヌキ県の特産品をこよなく愛する青年たちが、環境汚染を広げている、悪のゴミゴミ団と戦うための組織である。」

「だけん、ゴミゴミ団って何な…?」

「サヌキ県の各市町村に、ごみをばらまいたり、ごみの分別をしなかったりする、悪の組織だ!」

「たかだかそんなことで、こんな基地まで作らないかんのか…。」

と、黒川の顔がきっ、と雄平のほうに向いた。

「秋山くん、考えてみたまえ。たかだかゴミでも、それを回収するとなると職員の手が取られるのは必定。その職員の給料は、キミたちが払う貴重な税金からまかなわれているのだ。しかも、無分別のゴミを燃やせば、有害ガスでオゾン層が破壊され、さらにゴミを燃やす窯の寿命も短くなる。そうなればまた、税金が投入されるんだぞ!」

噛みつかんばかりに、熱く語る黒川。雄平はもちまえのあきらめの速さで、逆らわないよう路線変更した。

「オゾン層を破壊するんは、フロンガスですが……わかりました。すいません、オレの認識不足です。」

黒川は我に返り、後ろを向くと言った。

「ところで、だ。私がサヌキレンジャーを結成しようと思ったわけは、もう一つある。」

毒を食らわば皿まで…と思ったかどうか、雄平は言った。

「へえぇ…そりゃどんな?」

「鳥取県には、【鳥取戦隊】。沖縄県には、【沖縄戦隊】が存在する。南の島の宮古島にさえ、【ミヤコジマン】がいるのに、わがサヌキ県には、ご当地戦隊が存在しないんだ!」

がくっ。

『このオヤジは、特撮世代か…。しかもそれ、何かのイベントに出てくるキャラクターで、本物の秘密戦隊と違う!』

半ばあきらめて、言う雄平。

「それで、このオレに何をやらそうと?」

「喜びたまえ、秋山くん。キミには栄えあるサヌキレンジャーのレッド・金時レッドとなってもらおうじゃないか!」

『お願い!オレのことはそっとしといて――!』

雄平は逃げたい一心で、下手に切り返した。

「いや、そんな大役、オレには無理です。ほかに誰か適役がきっとおるはず…――!」

しかし、黒川は雄平の両肩をがしっ、とつかみ、(多分逃げられないようにするためだろうが)言い放った。

「残念だが、サヌキ県の特産品で赤いもの、と言えば、キミが作っている金時ニンジンしかなくってねえ。不戦勝、というか…野良犬に噛まれたというか…まあ、頑張ってくれたまえ。」

「ちょっと待てい!オレの意見は聞かんのか?」

「残念ながら、キミの話を聞いている暇はないのだ。他のメンバーをスカウトしに行かねばならないからな!」

はははは、と高笑いでごまかす黒川。こいつがいなくなったら、もう帰ろう、と思っていた矢先、雄平はまた、黒づくめの男に腕をつかまれた。黒塗りの車の運転手だ。

「何するんや!」

「ああ、言い忘れたんだが――。」

黒川が振り返る。

「せっかくだから、キミにもスカウト活動を手伝ってもらうよ。」

「いいかげんにせえ!オレには、ニンジンの世話が…!」

「大丈夫、何のために昨日一日キミの監視をしていたと思うのかね?今頃キミの畑には、うちの職員が出向いて作業を行っているはずだ。…見てみるかね?」

黒川が、ふところから出した小さな液晶モニター。そこにはまさに雄平のニンジン畑が映っていて、そこを右往左往する黒ずくめの職員がいるのがわかった。

「彼らは、農業のエキスパートだ。我々がサヌキレンジャーとして働いている間、コピーロボットのようにサポートしてくれるぞ。では、行こうか!」

『このオヤジ、特撮だけでなく、アニメも好きか…。』

秘密基地の通路をまた引きずられていきながら、雄平はぼんやりと思った。

『変なうわさが立たんかったらええけどなー…。』

続く .........。
  

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