
環境戦隊サヌキレンジャー! S
ものごとの終わりと始まり
そんなこんなで、文化の日のイベントは幕を閉じた。
成功したんかしてないのかわからんが、少なくとも一人の人間を、悪の道から引きずり出すことには成功したわけで。とりあえず、よかったことと悪かったことを天秤ばかりにかけてみたが、どっちかというとやっぱりよくなかったほうに傾くだろう、と思う雄平今日このごろ。
向こうのあぜ道を、学校に向かう小学生の列。黒川のおっさんが差し向けた、黒服の調査員のおかげで不審者さわぎが勃発。結果集団登下校が行われるようになったせいで、黄色いカバーのランドセルを背負った一年生を誘導しつつ、学校に向かうのは雄平の顔見知りの小学生たちだ。
「あー、雄平兄ちゃんや〜。おはよう!」
「おはよ〜。気つけて学校行けよ!」
「だ〜いじょうぶ。また何かあったら、頼りないけど兄ちゃん呼ぶけん。」
「頼りないは余計じゃ!」
笑いながら手を振りかえし、つぶやく。
「――あいつら…急に頼もしなったな。」
しかし、ふと我に返った。
「…そんなよっけ、何かがあってたまるか!」
今日は快晴。どこまでも高く澄んだ青空の下、すくすく育つニンジン。サヌキレンジャーさわぎで手入れを怠ったニンジンが、グレて枯れる恐れもあったが、そこは県庁の黒子の皆さんや、意外にも時々手入れをしてくれた両親のおかげで、いつもの実りが期待できそうだった。
雄平の手には、招待状が一枚。【今回のさわぎの打ち上げパーティをするので、ぜひ参加してください。】と書かれている。大変な事態ではあったが、何とか片がついたことだし、パーティだったら昼ごはんも浮く。セコい理由で参加を決めた。
「せめて、迷惑かけられた分、メシおごってもろうてもバチは当たらん。」
水かけを終えて一息ついたとき、遠くからもこもこと車が近づいてきた。そして聞きなれた九州なまりの声が聞こえた。
「雄平ちゃ〜ん!迎えにきたとよ〜!」
「あ〜、丁度仕事終わったとこや。いつもすまんの〜。」
ふと車の中を覗き込むと、ゆるい顔の横に同じ顔がふたつ並んでいる。
「やっほ〜。」
そのうちのひとつが、小学生よろしく手を振った。
「おまっ、なな、何しに来たんじゃ!」
「何しに来たんじゃ、はないやろ〜。雄平がちゃんと仕事しとるか、見に来たんでない。」
「あのな、オレはこう見えても善良な社会人なんじゃ!」
「まあまあ、ケンカせんと。嫉妬するくらい仲ええな、お二人さん。」
伊野倉があきれるほど、息ぴったりでいがみ合う二人。同時に逆襲。
「冗談でもそんなこと言わんでくれる?うざいんじゃわ!」
「亮ちゃん、言うてええことと悪いことがあるぞ!」
「……わかった、わかった。オレが悪かったばい。」
「まったく、冗談はほどほどにしてくれんかの〜。」
雄平が助手席に乗り込むと、車はもこもこと走り始めた。すると、うしろから声がする。
「ごめんね、私が無理言うたん。秋山さん自慢のニンジン見たかったから。」
「ええって。――別にほかの畑と、何も変わらんやろ。」
「ううん、なんか元気になれそうな気がする。」
「…秋山さんの愛情いっぱいだからかな…私も少し分けてもらいたいなぁ!」
「えっ!」
絶句して、雄平がいろんな妄想をコンマ何秒かで繰り広げたとき、横やりが入った。
「亜衣!もういい加減にして!勝手にアテレコせんとって、って言うたやん!」
がくっ。
『何や、麻衣ちゃんと違うかったんか…。』
もめる双子と、真っ赤な顔をした雄平の妄想をよそに、車はサンメッセに到着した。
「……遅いぞ、愚民ども。」
サンメッセにある大学研究棟の前で、阿久津が仁王立ちしていた。
「お前、相変わらず態度でかいの〜。」
「みんなお待ちかねだ。不本意だが、お前らがいないと始まらん。」
駐車場に愛車を置きに行った伊野倉は放っておいて、足早に歩く阿久津の後を必死についていく三人。たどり着いたのは研究棟の向こう側にある、平たい建物。ここは雄平にとっても未知の世界であった。
『あの、仕掛けだらけの研究棟しか、来たことないけんの〜。』
中から、大勢の人のざわめきが聞こえてくる。
「…何か、いやな予感。」
ボソッと言った雄平の言葉に耳を貸すこともなく、そこに入る阿久津。中は案の定たくさんの人で満たされていて、なぜだか盛り上がっているようすだった。列席の人々の横を歩いていき、【サヌキ県産業支援新団体 発足式典】と、でかでか書かれた垂れ幕が飾ってあるステージへの階段を上がる。
すると不意にスポットライトが当たった。
「ご紹介しましょう!皆さんご存知、サヌキレンジャーのリーダー、秋山雄平くんです!」
不思議なくらい、会場を埋め尽くす拍手。さりげなくライトの向こう側へと消える双子。いつもはあまり仲がよくないこの二人だが、こんなときだけは見事に息ぴったりである。
「ええっ、な、何?――ちょっと!」
助けを求めたが、周りにはすでに誰もいない。いるのは、マイクを持った進行役の人と自分だけである。自分を案内した阿久津でさえ、さりげなくステージをスルーして向こう側の階段から下に下りるところだった。
『……はめられた!』
しかし、時すでに遅し。雄平はひとり、ステージ上でマイクを向けられていた。
「秋山さん、いや〜、ドキドキしますね!」
「………何が、です?」
「いやですね〜、このサヌキ県を盛り上げるための、新しい仲間が発表されるんじゃないですか〜。」
「新しい…仲間ぁ〜?そんなん、初耳ですよ?だいいち、オレは今のメンバーでさえ充分もてあましとるのに、これ以上面倒見れません!」
「またまた〜、ご謙遜を。――さあ、準備できたようですね、いよいよメンバーの登場です!」
「人の話を聞け〜!」
さっさと片づけられたマイクに、雄平の叫びは入らない。おまけに、スポットライトも容赦なく消されて、雄平蚊帳の外状態。
と、ステージの真ん中あたりに、目がちかちかするオレンジ色のスポットライトが当たった。呆気にとられる雄平の横から、ナレーションが入る。
「瀬戸内の穏やかな海で育ったカタクチイワシを、太陽の力と融合させて生まれたイリコ。うどんのダシには欠かせぬサヌキの味覚、いりこシルバー!」
「干物やんか!」
雄平が突っ込むと同時に、客席から声があがる。
「ちょっと待ったコール!!」
「亮…ちゃん?」
伊野倉がステージに駆け上がってきた。駐車場に車を置いてここにきたら、ちょうど聞き捨てならない紹介が聞こえてきたのだろう。
「うどんのダシに欠かせんイリコに恨みはないばってん、魚は鮮度が命たい!」
しかし、いりこシルバーも負けてはいなかった。
「いいや、よく聞け!灰の中からよみがえる不死鳥のごとく、イリコは死してなお、ダシを残すのだ!県外人の分際で、サヌキを語るなかれ!」
「あんた、なんば言いよっとね!しゃべる言葉がサヌキ弁やなかったら、サヌキを愛したらいかんとか!?サヌキの人は、広さに反比例して心が広いんやなかか!」
「ちょっと、亮ちゃん、落ち着けって。」
伊野倉の身体を羽交い絞めにし、乱闘さわぎをやっとのことで阻止した雄平。しかし、進行役のお兄ちゃんは、淡々と次の怪人、もとい、B級ヒーローの紹介を続ける。
「…えー、時間も押していることですし、次のメンバーの紹介に移ります。――きらめく銀砂にはえる芸術。西サヌキのヒーロー、その名も感音寺ゼニガタン!」
「そのヒーローは何色や!」
「おまけに特産品でもなか!」
しかし、今回の怪人は打たれ強い。雄平と伊野倉の突っ込みに、これっぽっちもひるむ様子はない。(ある意味、この図々しさこそ、サヌキレンジャーに欠けていたものかもしれなのだが…。)
「確かに特産品でこそないが、私はサヌキに生きるものとして、このなるい風土を愛している!観光地シリーズのヒーローがいてもいいじゃないか。なあ、会場の皆さんもそう思いますよね!」
ゼニガタンの言葉に、会場は拍手の渦に包まれた。サクラだろうがおとりだろうが、人はおだてられると、ブタ以上に木に登る。そしてその勢いのままに、進行役のお兄ちゃんからマイクをもぎ取ると、たたみかけるように叫んだ。
「では、ここからは僭越ながらこのワタクシが、紹介させていただきましょう!サヌキ県中央部の春の味覚。殊比良の風土がはぐくんだ、殊比良タケノコン!茶色のうろこ状プロテクターは、どんな敵の攻撃からも身を守ることができ〜る!」
舞台そでから飛び出してきた、地味〜な人物。人ごみにまぎれていたら、絶対わからんだろうというくらい目立たない茶色だったが、不意に、茶色いうろこ状のものがメカチックに動き、タケノコンの身体を覆い尽くす。すると次の瞬間そこにあったのは巨大なタケノコであった。こんなタケノコが川上から流れてきたら、誰もが見て見ぬふりをするだろう、コンマ一秒くらいそんな想像をしたのだが、すぐに気を取り直し、突っ込んだ。
「――防御しかできんのかい!」
「身を守らなければ、やられるじゃないか。第一この県に攻撃してくるやつはおらんし。狭いし、ちまっとしとるし。」
「決め付けるな!県内から攻撃されんとは限らん!」
意外な突っ込みは、客席から上がった。見ると、そこには坂元社長をはじめ、さいたクリーンサービスの社員の皆さんがいた。どうやら社員総出らしい。しかし、新組織のメンバーは、くどいようだが打たれ強い。
「問答無用!光回線並に、さくさく紹介していこう!四人目は、この人しかいない。新緑が目に痛い初夏、サヌキ隆瀬は茶のかおり。隆瀬リョクチャーンだっ!」
確かに目に痛い派手な緑色が、ステージでポーズを取る。殊比良タケノコンとは正反対に、その姿を凝視すると、くっきりと残像がまぶたに焼きつくくらい、うっとうしい。
このあたりになると、いちいち突っ込む気力も失せる。テンションだだ下がりの雄平にかわって、また会場の一角から熱い突っ込みの声が上がった。
「ちょっと待ったコール、そのA!」
髪の毛を緑に染め、つんつんに立てたひょろっと背の高い男。
「ええっ、緑川…さん?」
「おおよっ!――ええか、よう聞け!緑はオレがもう押さえとる。サヌキでは、緑イコールオリーブなんじゃ!この数式は変えようがないぞ。」
「どこが数式じゃ!」
逆に突っ込まれる始末。ステージの上でにらみ合う緑川と、リョクチャーンをほっといて、さらに紹介は続く。
「サヌキの知性といったら、この人しかいない!四度ゲンナイン、参上だ〜!」
「それ、特産品でもないし、ましてや観光地でもないっ!」
と、その時不意に会場が薄暗くなったかと思うと、ステージにあやしい黒雲が沸き立ち、おまけに稲光まで光り始めた。そしてその稲光の中…でなくて、稲光を発するメカを抱えた、あやしい怪人がステージ中央に歩いてくる。ブキミに小さな雷をその辺に落としながらの登場に、ステージ脇にいた二、三人の人が感電したらしく、タンカで運び出されて行った。思わず身構える雄平。
「四度といえば、遠く江戸時代に数々の発明をした平賀源内の生誕地。その意志を継ぎ、この私が現代の源内を名乗ろうではないか!」
どちらかというと、マッドサイエンティストといったほうがよく似合う。そのセリフを合図に、稲光が会場を埋め尽くした。それと同時に、さらに観客の何人かがその場に昏倒する事態に発展。
『ちょっと、コレ、なんぼなんでもやりすぎでないんか〜?』
「…あ、あのう…。」
ゲンナインにおそるおそる近づき、接触を試みたその時。
「ええい、ややこしい!何が現代の源内だ。」
声に振り返ると、今度は阿久津がステージの真ん中で仁王立ちしていた。
「な、何者!」
「その言葉を、そっくりお前に返す!…傍で聞いていれば、聞き捨てならんな。お前ごときにこのサヌキの発明王の座は渡せん!」
どうやら阿久津は、サヌキの発明王という称号(まったく価値なし)を誰にも渡したくないらしい。にらみ合う阿久津とゲンナイン。止めに入ろうかと思ったが、最後の怪人が紹介されるに至って、それどころではなくなった。
「え〜、それでは最後の一人を。…西サヌキの東の端、この峠から向こうは別世界。昔の人はここで糖分を補給し、見知らぬ別世界に旅立ったという――!出でよ、咄嗟可マンジュウン!」
「――西サヌキ人にしかわからんわ!」
「だまらっしゃい!」
「!もがっ!」
マンジュウンが投げた白いつぶてが、思いっきり突っ込んで大口開けた雄平の口にヒット!
………もぐもぐもぐもぐ…ごくん。
ほんのりと酒のにおいがする一口サイズのまんじゅうは、ハンパなしにうまかった。
「どうだ。昔から人々はこの咄嗟可峠を、このまんじゅうを食べつつ越えたのだ。」
「…そら、そうだったかもしれんけど…。」
「サヌキの銘菓は、ポエムやカワラせんべいでなく、今日この時間から咄嗟可まんじゅうに決まった!」
がははは、と高笑いするマンジュウン。つっこみどころをはずした雄平が呆然としている横で、急にマンジュウンが昏倒した!
「何っ?」
うろたえる怪人戦隊。取っ組み合いのさなか、あるものは右手のこぶしを振り上げたまま、マンジュウンが昏倒した理由を探るべく、あたりをきょろきょろと見回した。その光景は、かつて正義のヒーローを捜す怪人たちが、集団で右往左往しているさまのようだと言えば、わかりやすいかもしれない。――すると。
「……さっきから聞いてりゃ、好き勝手言うてくれよるやない。サヌキの銘菓が、そんな怪しいまんじゅうであるわけがない!時代はもうずっと前から和三盆糖なんじゃわ!」
この声――!
この会場全体を見下ろす形に作られた、細い通路に立つ二つの白い影。ひとつは白いボールを持ち、もうひとつは白いリボンを握っている。その端っこが、マンジュウンの首に絡み付いていた。
「いまや和三盆は、サヌキのお菓子になかったらいかん砂糖なんやけん!それ以上わけのわからんこと言いよったら、本気で相手するで!」
すごむ亜衣。次の瞬間には、目にも留まらぬ速さでボールつぶてが降り注いだ。当然のことながら、近くにいた雄平も巻き添えを食らっている。
「イタタ、イタ…痛いって!お前のほうがワケわからん!」
そればかりでなく、すでにステージの上は大乱闘に発展していた。
イリコシルバー vs 伊野倉ことはまちブルー。海産物のプライドをかけた争い。
殊比良タケノコン vs さいたクリーンサービスの皆さん。防衛意識の相違。
隆瀬リョクチャーン vs 緑川ことオリーブグリーン。緑の覇権争い。
四度ゲンナイン vs 阿久津徹。どちらが真の発明王か?
咄嗟可マンジュウン vs 亜衣・麻衣コンビ。和菓子における和三盆糖の地位の確立。
どうにも収拾がつかんので、雄平は最後の手段に出た。腕時計型をしたパワーチェンジャーのスイッチを押し、叫ぶ。
「よ、葉子さ〜ん!お願い、早く来て〜〜!」
ややあって、不機嫌そうな声が聞こえてきた。
『誰な、変な声出しますな。』
「誰、て。雄平です!秋山雄平!」
『………ああ、思い出したわ。押しの弱い赤な。…で?』
しばらくの沈黙が気になったが、それどころでないので続けた。
「今大変なことになっとるんです!変なんがよっけ出てきて…。」
『ふうん?あんたらより変なんか。』
「だいぶ変です!イリコやらタケノコやら、マンジュウやら!」
葉子さんが、向こう側でひとつため息をついたのがわかった。
『落ち着きまい。大丈夫や、多分。』
「多分、て!」
『心配せんでも、今までやって変な怪人相手にやれたんやから、今回もおんなじや。』
「ほんでも!」
食い下がる雄平。しかし、葉子さんはにべもなくこう言った。
『すまんけど、ワタシ農協婦人部で紅葉狩りに来とんじゃわ。すぐにや行けんで。』
「そそ、そんな〜!」
『いつまでもワタシばっかり頼らんの!しっかりしまい、汚名返上のチャンスや!ほんならの。』
ぷつっ
あっさり沈黙するパワーチェンジャー。雄平八つ当たり。
「乱闘抑止力のないときに、こんな会開くな!…こうなったら!」
雄平は、会場いっぱいにひびくよう、声を張り上げた。今までの展開上、きっとこの会場のどこかに、もう一人の人物がいるはずだ、と踏んでのカケである。
「――神野さ〜〜ん!出番ですっ!」
お坊さんの神野なら、きっとこの事態を収拾してくれるはずだと、ない知恵をしぼって出した、最後の手段だったのだが――。
世間はそんなに甘くない。しかも、事実は小説より奇だったりする。
「はい?」
すぐ後ろで声がした。
「神野さん、どこにおったんですか!神野さんがおらんとおさまりが………。」
振り返ったそこには、感音寺ゼニガタンがいた。
ものすごく、いやな予感がする。
「…………神野…さん?」
「バレましたか。ははは。」
ゼニガタンのマスクを取ると、B級戦隊のイロモノ怪人ではなく、神野がそこにいた。
「一体どういうことですか、何で神野さんがこんな…。」
あほなことを、という部分は、かろうじて飲み込んだ雄平。神野は、そのコスチュームからは想像できないくらいさわやかに笑って言った。
「話せば長くなるんですが、あの後…父と話したんです。」
「あの後、というのはもちろん、サンポートの?」
「ええ。私は、自分の気持ちを無視して、他人が望む生き方をしていたのに気がつきました。彼らに指摘されるまで、そういう生き方しかできないのだと、思い込んでいた。」
神野の視線の先には、殊比良タケノコンとののしりあう、さいたクリーンサービスの皆さんの姿がある。
「人に必要なものが、正義を愛する心と真実を見る目だ、と言いながら私は…自分の中の真実を見過ごしてきたんです。だから父に、もう一度自分の可能性を試したいと…競輪をやりたいと、話しました。そうしたら、あっさりと父が許可してくれて。…知ってますか?感音寺には競輪場もあるんですよ〜。」
「それはええですけど、お坊さんはどうするんです?」
「しばらく寺は父が頑張るそうです。――そういうわけで、晴れて私はフリーの身。これからは好きに生きていくことにしました。よろしくお願いしますね。」
「何を、ですか!」
そこで神野はマスクをかぶり、再びB級戦隊のイロモノ怪人に化けた。
「はっはっはっ、サヌキを活気づけるのは、我々サヌキレンジャー・セカンド以外にあり得ない!悔しかったら、尋常に勝負するのだ!」
「何、そのサヌキレンジャー・セカンドって。」
「…今つけました。何せ我々、まだ知名度が低い二軍なもので。」
「オレらの知名度も、ないに等しいじゃないですか!」
「そんなことはどうでもいいんです。せっかくですから、いざ勝負、勝負っ!」
ステージ上の大混乱をよそに、会場に集まった人たちはむしろ、この事態を楽しんでいるようにも見える。恐らく教授や黒川の一派の人たちだろう。もしかしたら、この日本一小さな県を、イロモノヒーローで活性化(いわゆる見世物化)させようと目論んでいるのかもしれない。
『このままここにおったら、きっと俺はダメになる。』
脱兎のごとく、走り出す雄平。しかし、そんなに簡単にいくはずもなく――。
「逃がさないよ、秋山くん。」
目の前に立ちはだかる黒川と、その一派の黒子さん&こわもての運転手に羽交い絞めにされる。雄平の目の前で、無情にも外への扉がゆっくりと閉じられていった。
「お楽しみは、これからだもんね〜。」
「――い〜や〜だ〜!」
おおぜいの人のざわめきに、いつしかその叫びも消されて聞こえなくなった。
さて、その後サヌキ県には、環境を守る組織、その名も環境課が設立されたようである。構成員はもちろんB級ヒーローたちで、その主な活動は、県内各地での清掃活動および県民への啓発活動らしい。狭い県のあちこちで、イロモノの怪人・もといヒーローたちが、定期的にごみ分別指導やごみ拾いをしているそうだ。そしてその光景は全国放送され、いつしかサヌキのうどんと並ぶサヌキ名物となったという。瀬戸大橋渡ってわざわざ見物に来る人もいるらしく、観光収入にもちょっぴり貢献している今日この頃。もちろん、地味な農作物のPRにも一役買っているそうな。
――そして、やっぱり瀬戸内海はおだやかで、いつものなるい風が吹いている。
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