
環境戦隊サヌキレンジャー! K
サヌキレンジャー勢ぞろい―そのA―
作者の心配をよそに、いつも陽気な赤青コンビは、信号機カラーを完成させるべく万濃町に向かっていた。
「…何か、テンション下がるなー。」
うどん屋で怒られて投げやりな雄平に対して、打たれ強い伊野倉。(怒られたのは雄平だけなので、そんなもんかもしれない。)
「ほら、雄平ちゃんなんばしよっと。ちゃんと時計見ようらないかんったい。」
「そんなこと言うても…。」
万濃町は、カリンの里として知られている。春に咲くピンクの花が実を結び、今は緑色のタマゴ大の実が、枝のあちこちについているのがわかる。秋が深まる頃に、黄色く色づいてから収穫されるそれは、冬場の乾燥からのどを守ってくれる逸品だ。
やがて車は、大きな池のほとりにたどり着いた。万濃池である。
「はあ〜、大きい池やねえ。」
感心する伊野倉に、雄平は言った。
「万濃池言うんや。ここは、昔日照りで困っとった農民たちのために、お大師さんが一晩で作った、いう言い伝えがあっての。」
「ほー。外国に留学するくらい頭がようて、土木技術にまで詳しいんや。すごい人やね、おだいっさん言う人は。」
「ホンマやな…。俺らとはえらい違いや…。」
がっくりと肩を落とす雄平。しかしいつまでも落ち込んではいられない。ほんのちょっぴりのポジティブ思考で顔を上げる。と、すこし先の木の下で、誰かが手を振っているのが見えた。
「なあ、亮ちゃん?…あの人、俺らに手振っりょんかの?」
雄平の声に、きょろきょろとあたりを見回す伊野倉。そこに自分たちの車しかないのを確認すると、ぼそっと言った。
「そうかも。」
「――何で?」
「そんなこと、オレにわかるわけなかろーもん。」
しれっ、と言う伊野倉。雄平はため息をついた。
「そんならいつものように、本人に聞こか。」
「そ〜ね〜。」
ゆるゆると車が動き出したとき、二人の右手からあの音が響いた。彼らと同じ時計もどきを持っている人が近くに来ると鳴りだすという、便利なんかそうでないんかわからん機能のアラームだ。(というのも、対象人物が五十メートル以内にいないと鳴らないらしい。)
「亮ちゃん、もしかするとあの人――。」
「そうらしかね。」
「…何で俺らがここにおるんがわかったんやろか。」
「さあ。たまたま時計見よっただけかもしれんったい。」
そんな簡単なわけはないと思うが、とりあえずもこもことその人のところまで車を走らせた。時計もどきの黄色い光が、目の前の人物を【悟りの黄色】本人だと証明している。
作務衣を着たその人物が、雄平たちより先ににっこり笑って手を差し出した。その手には、明らかに自分たちのと同じ時計もどきが付けられていた。
「はじめまして、神野治です。」
「あ…は、はじめまして。俺は、でなくて、私は秋山雄平。こっちが伊野倉亮輔言うて、あの――。」
「――黒川さんから話は聞いています。お待ちしていました。僕が、黄色担当です。」
こちらが聞く前に、ほしい情報がどんどん入ってくる違和感。思わず、顔を見合わせる。
「え?…何で俺たちの用事がわかったんです?」
しかしその質問の答えのかわりに、彼はこう言った。
「まあ、落ち着いて話しませんか?こちらへどうぞ。」
伊野倉が車を停めたのは、万濃池のほとりにある、静かな寺の境内だった。
「ここは?」
さわさわと境内を渡る風は、万濃池から涼しさを運んでくる。葉がこすれてたてるかすかな音さえ、心地いい。
「番外札所といって、本来の札所以外で弘法大師にかかわりのあるお寺が二十ヶ寺あり、この寺はそのうちの一つに数えられています。ちなみに、僕はここで育ちました。…どうぞ?」
さそわれるままに木陰のベンチに腰かける二人。
「じゃあ、神野さんは住職さんなんですか?」
「いいえ。住職は父です。僕は修行中の身ですし、この近くでカリンの世話もしているんです。どちらかというと、農業のほうが性に合っているような気もしますが。」
「でも、いずれはお父さんのあとを継ぐんとちゃうんですか?」
雄平がそう言うと、ほんの一瞬だけ作務衣姿の青年の顔が曇った。しかし修行のせいなのか、次の瞬間にはもう仏さまの笑みに似たアルカイックスマイルを浮かべて…。
「……そうなるでしょうね。」
でも、雄平にはその笑顔がなぜだか気になった。明らかにそれは、心の中が表情を通して透けて見えているような、伊野倉や黒川たちが見せる笑いとは違う。
「そうなるでしょうね、って人ごとみたいに。――本当にそれでええんですか?」
「いいんですよ。いくらあがいても、変えられない未来だってあるんですから。」
「でも!」
なおも食い下がる雄平。
「……それにね、こんなことを言うと変人扱いされると思うから、軽く聞き流してください。――僕には、このところサヌキ県を覆い始めている、黒い気が見えるんです。…それは多分、同じ感情を持つ私にしかわかりようのない、負の感情…。」
「麩の勘定?」
「婦退かんジョー?」
残念ながら、雄平や伊野倉の頭の中に、その言葉を理解するためのソフトはなかった。
「ほらね?みなさんそんなもんです。――なんにせよ、いずれこののどかな土地に、災いがふりかかるのは必至。そして今、その災いを振り払うことのできるのが私たちしかいないとしたら、いくら怪しい人の申し出だとしても、断る理由はありません。」
人の話を軽く聞き流していた矢先、ようやく脳細胞に言葉が届いた。
「…神野さん?今、同じ感情を持つとか、言わんかったですか。」
雄平は続けた。
「――そんなら、神野さんも何かそういう…いわば悪者の気持ちを持っとる…と?」
「そうです。」
今度は、そこでようやく話の内容が脳細胞に届いた伊野倉参戦。
「それじゃ、いかんったい!あんたなんば言いよっとね。」
「どうしてですか?」
「どうして、って…。そら、正義の味方が悪い気持ちを持っとったらいかんでっしょうが。」
しかし、神野の瞳の中には、ひとかけらの曇りもないように見えた。
「そうでしょうか。人間はもともと、その中に善と悪の心を封じ込めているようなものです。時と場合によって、どちらかが表に顔を出す。あなただって、時には他人を恨んだり、憎いと思ったりするでしょう?」
正面から見据える神野に、伊野倉はたじたじとならざるをえない。
「そら、そうかもしれんばってん…。」
「自分以外の誰かが悪で、正義とは悪を滅ぼすものだという考えは、人間そのものを否定するようなものです。我々はその事実を、世の中に知らしめるためここに存在する……。」
――神野の説法は、それから小一時間も続いた…。
文句も言わずに、二人がそれを最後まで聞き続けたのは、単に話をさえぎることができなかっただけで、決して向学心にあふれてとかいう類のものではないことをつけ加えておこう。
さて。
「…何か、疲れたな…。」
つぶやく雄平に、伊野倉も相づちを打った。
「ほんとやね〜。オレ、久しぶりに勉強したような気がするったい。」
西に傾きかけた太陽を横目に、車は帰途に着いた。
「…なあ、亮ちゃん。」
「何ね?」
「――メンバー、まだ一人おるんよな?」
雄平にそう言われ、働きつかれた脳にムチ打って、必死で思い出す伊野倉。
「そういえば、緑の人がおったかもしれんばってん、訪ねていくのはまだ早かろーもん。」
「そやな。海渡らないかんし…今日の俺らには、この辺が限界かもしれんの。」
と、その時。
忘れ去られようとした緑担当が、自己主張した。
『ちょっと、待て〜い!』
「…えっ?何この声。」
うろたえる雄平の横で、動じずにハンドルを握る伊野倉。――というよりも、面倒くさいので無視しているというのが、真相らしい。
「気にせんでよか。オレら疲れとるから、聞かんでよかもんまで聞いてしまうとよ。」
「いや、そう言うても、現に時計が…。」
右手の時計を持ち上げて、そこが不気味に緑色の光を発しているのを見せる。どうやら最後のメンバーが、時計もどきの機能を使って通信してきたらしい。ところが。
「せからしか。」
伊野倉が雄平の時計もどきについているスイッチをポチッ、と押すと、光も消えて沈黙した。
「ちょっと、亮ちゃん!文句言われても、俺のせいとちゃうけんな!」
「…そんなら聞くけど――。」
そこで伊野倉は、いままで見せたことないくらい真剣な顔をしてみせ、続けた。
「雄平ちゃんは、日も暮れかかった今日、これ以上面倒なことする体力が残っとると?」
「そっ、それは……。」
思わずどもる雄平。返事がないので、伊野倉は勝ち誇ったように言った。
「そういうもんたい。人間万事さいおうが馬、言うやなかね。」
「――さいおうがうま、って?」
雄平のつっこみに、こんどは伊野倉がどもった。
「そっ、そこに突っこまんでよかろーもん。…人の話は話半分で聞くもんたい。」
しどろもどろのいいわけをしながら、クリーム色のMOKOは頭を垂れ始めた田んぼの中の道を、瀬戸内海方面に向かって戻り始めた。そして雄平は、伊野倉が【ゆるキャラ】なのではなく、【都合の悪いことは聞かない】事なかれ主義なのだ、ということをあらためて認識することとなった。
お日様が傾くと同時に、気分も心なしか傾いてくるように感じる。窓から流れ込んでくる、青臭い稲の香りをかぎながら、雄平は思う。
『多分緑の人、おこっとるやろうな〜。』
そんなことを考えつつ、まず最初はどんな言い訳しようか、と思いをめぐらす自分に、けなげさを感じる雄平今日この頃であった。
基本的に、このリーダーで大丈夫か???T○KT○はほかのメンバーがしっかりしているが、サヌキレンジャーは他のメンバーも期待できそうにないぞ!悪と対決する前に、絶体絶命のピンチを迎えたサヌキレンジャー。次回に期待しよう!
続く .........。
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