環境戦隊サヌキレンジャー!
  

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金時レッド
環境戦隊サヌキレンジャー! Q


真の敵 ・ 登場

 

 「ちょ〜っと、待った!」

ステージに声が響き渡る。どこかで音響さんが声を拾っているのだろう、その声に、ステージ上の悪の組織が喜びの舞をやめた。

「何じゃ〜?人がせっかく、機嫌よう踊んりょるのに。」

「すいません。こちらもいろいろ準備がありまして。」

深々とお辞儀をして、顔を上げた雄平の目の前には、なつかしくもおぞましいおっちゃんの顔があった。

「何やさっきの、彼女がおらん兄ちゃんやないか。」

「げげっ、マジンライナーの酔うたおっさん…。」

芝生広場を埋め尽くした親子連れから、失笑の嵐。精神に百ダメージで、急に、堪忍袋の緒の修復機能が回復したらしい。こんな見せ場で、無敵状態解除。青菜に塩状態の雄平。

それを見て取った亜衣は、ひとつため息をつき、次に控えている伊野倉を盾にした。

「サヌキレンジャーいうんは、あんたらか。わしらは、県庁のやつに文句言いたいだけやけん、邪魔せんといてくれるか。」

「どんな理由があるんか知らんばってん、対決やいうてええことじゃなかよ。」

「…突っ込んでええか?何でサヌキレンジャーに、九州もんがおるんじゃ。」

「そうだ、そうだ!」

おっちゃんの後ろに控える社員が、声をそろえて合いの手を入れた。伊野倉、ダメージ百五十。

「ええい、役に立たん!行け、緑川!」

「ええ〜っ?オレ?」

亜衣の叱咤激励に逆らえる人間はいない。今度は緑川が矢面に立たされた。しかし、当然緑川も、舌と神経に、お酒という潤滑油をさしたおっさんの敵になるわけもなく…。

「あの〜ですね。」

「ぼくよ、あたまから草が生えよんか。」

玉砕。緑色に染めた前髪ごとうなだれ、すごすごと引き下がる。仕方なく、対決始めてからたった三分ほどで、真打登場の運びとなった。

「仕方ないですねえ。では、私が。」

深々とおじぎをする神野にくらべ、対照的にびびるゴミゴミ団こと、さいたクリーンサービス社員一同。余裕の笑みをうかべたまま、神野は言った。

「はじめまして。私は、サヌキレンジャーの理性を担当している神野と申します。ややお話が脱線しているようですので、私がうけたまわりましょう。」

「おう。ちょっとは物わかりのええ兄ちゃんが出てきたやないか。ワシらはのう、いつもまじめな仕事人やったんじゃ。あななことさえなかったら、今でもまっとうな仕事をしとったはずなんや。」

「あななこと、とは?」

「よう聞いてくれた!ワシらが集めてきて保管しとったゴミの中から、使うたあとの注射の針やらなんやらが出てきおったんじゃ。それだけならまだしも、そこで遊んどった子がおってからに…。おおごとにはならんかったけど、近所の皆さんからさんざ文句言われたあげく、県に通報されてのう。」

「つまり、医療廃棄物を処理する業者でもないのに、それを集めた上、管理も怠った、と言われたんですね?」

「その通りじゃ。県の役人が来て、文句いっぱい言うて、そのあげくにごみ収集業者の資格も取り消されてしもうたんじゃが。」

「ちなみに、問題のゴミはどこから?」

「知らん!わしらの知らん間に、紛れこんどったんじゃ!これはホンマやぞ!」

もともとウソをつけるタイプでないおっちゃんのキャラクターを見て取り、神野は言った。

「何やら、策略のにおいがしますねぇ。」

「ほんなら…。」

「だまされたんですよ、きっと。恐らく医療廃棄物をまぎれ込ませた人が、重要なカギを握っているに違いありません。」

「でも、いったい誰がそんな悪さをしよったんじゃ。」

「…どうやら、真のゴミゴミ団は他にいるみたいですね。私が感じますに…。」

神野は目を閉じ、大きく息を吸った。ざわついていたギャラリーも、そのただならない張り詰めた空気を感じ、しん、と静まり返る。ステージの管理を担当しているスタッフまでもが、いつもと違う雰囲気に、ごくり、とつばを飲み込んだ瞬間のこと。

「――そちらから闇の気配がします。そうですね、そこのあなた!」

神野が指さしたのは、芝生広場を見下ろすように立っている、シンボルタワーのテラスの一角。そこにもおおぜいの見物客がいたが、そこに立っている場違いなスーツ姿の男が指さされているのを見ると、周りにいた家族連れが一瞬のうちに後ずさりをした。

 ひとりテラスの一角に佇むスーツの男は、口元に、にやりと笑みを貼り付けると、ずれたメガネを右手の人差し指で押し上げるしぐさをした。

「何のために、善良なこの方たちを巻き込んだのか、説明していただきましょうか。」

ステージ上に凛と立ち、犯人を問い詰める神野の姿は、ヒーローショーらしいシチュエーションに満ちていた。後ろに控えた雄平たちばかりでなく、さいたクリーンサービス一同も、尊敬のまなざしで見つめている。もちろん、ステージ下のちびっ子たちもだ。

緊張の糸が張り詰める芝生広場ステージ。そこに、あやしいスーツの男の声が響いた。気転を聞かせた音声さんが、神野の決め台詞の間に人ごみをすり抜けて走り、その声を拾える位置にマイクを構えたかららしい。(この時点での最大の功労者は、音声さんである。)

「……ばれない自信があったんだけどねぇ。黄色にそんな能力があったとは、僕の情報網もたいしたことないなぁ。」

「あ…阿久津くんやないか!何であんたが、ここにおるんじゃ。」

阿久津は、うろたえる社長の坂元に、冷たい視線を投げ、こう言った。

「社長、もう少しは私のために動いてもらわないと困りますね。開発途中のパワーチェンジャーのデータすら取れないじゃないですか。――私の予定では…。」

いくらかの沈黙のあと、笑いながら続ける。

「人のいいヤツをあやつって、オイシイとこだけいただくはずだったんだけど、やっぱうまくはいかないか。」

「どういうこっちゃ!あんたは、ワシらに協力してくれる善意の科学者なんやろ?」

社長の言葉に、阿久津は吐き捨てるように言った。

「ばかばかしい。私は単に、実験データがほしかっただけです。今どきそんな奇特な人間なんていませんよ。ねえ、久利林教授?」

阿久津の視線の先には、逆さづりの黒川を必死で下ろそうとしている久利林教授がいた。

「うわ、こら、えらいとこ見つかってもうたがな!」

「私は、あなたのやりかたをまねしただけです。いつも研究室の学生が犠牲になっていましたっけね?…今度は体のいい隠れ蓑ができて、よかったじゃないですか。」

「…かくれみの、言うて、俺らの事か?」

ぼそっと言う緑川に、神野はだまったまま頷くと、口の前に指を一本立てて見せた。

まわりの人たちの視線が集中する中、やっとのことで黒川を地面に降ろしたものの、阿久津ばかりでなくステージの面々に加えて、芝生広場のギャラリーの視線までが集中している状況では、縄をほどくという地味な行動ができない教授だった。(つまりは、目立ちたがりのええカッコしい。)

「…気を取り直して。あー、あー…。ただいまマイクのテスト中。」

「マイクテストは済んでますから、普通に話してください。」

小声で音声さんにたしなめられて、出端をくじかれた教授に、いつものように叱咤激励が飛んだ。

「ほら、教授。教え子になめられてどうするんですか!年の功のぶん、自分のほうが偉いって証明するチャンスでしょ!」

そういうのは、助手の横岡さんだ。しかし、教授は不満そうに口をとがらせた。

「キミにも、馬鹿にされているように感じるんだけど……?」

「気のせいです。さっさと対決してきてください。ほら、黒川さんも!所長なんでしょ?」

「所長でなくて、長官なんだけど。」

「朝刊も夕刊もありません。ご家族連れにも時間の都合がありますから、早めに決着つけてくださいね。それから。」

何を考えたのか、横岡助手は、テラスにいる阿久津にも言った。

「――阿久津くんも、ええかげんにしまい。逆恨みするんも程があるで!」

「うるさい!説教はたくさんだ!」

突然、テラスの手すりを飛び越えて、ステージの脇に降り立つ阿久津。(よい子はまねしないでください。)彼の周りを取り巻く不気味な雰囲気は、そのまま闇のエネルギーに変わり、周りの空気と反発しあっているのか、不気味なラップ音を生み出した。阿久津はケガひとつするでもなく、一歩を踏み出す。

 足元の芝生が一瞬にして茶色く縮れた。

胸のポケットから携帯を取り出し、いくつかのボタンを押す阿久津。

「コード・T・A・K・U・Z…。」

その声が、内蔵されたセンサーに認識された瞬間、凝縮された周りの空気から、鋼の色をしたものが阿久津の体に集まり始める。それはしだいに鈍い光沢を放つプロテクターの形を取った。

「凝着完了。…どうです、教授。」

「う…むぅ…。」

めずらしくシリアスな教授に、横岡助手が激励…というか、突っ込んだ。

「ほら〜、最近じゃ変身ツールは携帯電話と相場が決まってる、って言ったでしょう!!」

「いいや!そうではないぞ。何で変身しようが、要はその性能。それに、携帯だと落とす心配があるから、この場合腕時計が正解だ!」

「最近は、首にかける携帯ストラップもあります!」

胸を張る教授に、横岡さん以外は突っ込まなかった。突っ込まない、というよりむしろ、突っ込めなかったというほうが正解だったかもしれない。この後の自分たちの変身のことで、誰も余裕がなかったせいだった。

この戦いが、ヒーローショーなどではなく、本当の戦いだということを知らないギャラリーたちは、その光景に大喜びである。しかし、このまま阿久津が暴走を続けるようなら、イベントとしてこの戦いをしくんだサヌキ県の責任が問われるのは必至だ。

「どうしよ〜?適当に弱い悪者と戦うだけでよかったんだけど〜。」

あいかわらず、黒川にはこれっぽっちも悪気がない。亜衣はじろり、と黒川をにらむと言った。

「事態を丸く収めるには、本気モードのあいつと闘って…そんで、勝つしかない!」

久利林研究室の黒幕が横岡助手なら、サヌキレンジャーの影の黒幕は亜衣だろう。主役のクセに舞台の中心から外れたところにいる雄平は、恐る恐る横岡助手に聞いてみた。

「あのう…あの人と知り合いなんですか?」

「…笑わんとってよ?」

念押ししてから、横岡助手はぼそっと答えた。

「私ら……幼なじみなんよ。」

「え、え〜っ?」

「もう、声が大きい!!

あんたの声のほうが大きい、の言葉を、背中をしばかれた衝撃のついでに飲み込んだ雄平。二人の関係をどう聞くべきか悩んでいるうち、横岡助手のほうが勝手に回想モードになって話し始めた。

「阿久津くんは、誰よりもきれいな手島が好きやった。環境を守るために、できるだけのことしたんよ。けど、子どもの言うこと聞く大人はおらんかった。…それから、阿久津くんは人が変わったようになってしもうて。」

横岡助手は、雄平の手をぎゅっと握った。

「駄目モトでお願い!阿久津くんを元に戻して!あんたら、正義の味方なんやろ!」

「そんなこと、言われても、悪人を元に戻す方法やマニュアルには書いてなかったし…。」

「もう…あんたらマニュアルなかったら、何もできんのな〜。」

あきれたように言う横岡助手。しかし、すぐに熱い胸のうちを語りだした。

「そんな弱気では、世間の荒波を越えて生きていけんで!ええか、正義の味方に一番必要なんはな。」

「なな、何ですか?」

雄平は、ごくり、とつばを飲み込んだ。

「――ガッツや!」

がくっ。

「ように聞いとき〜?一にガッツ・二に気力。三、四がなくて五に忍耐。」

『こんなきびしい修行なら、正義の味方なんかやめてやる!』(雄平心の声。)

とりあえず、本心は心の中にしまいこんで、建前で言い訳をした。

「俺ら、ガッツないです。そんな理由があるんやったら、横岡さんがサヌキレンジャーになったらよかったやないですか。」

「いや、なんぼなんでも、人体実験のサンプルはいややわ。」

「靭帯実検、て?」

「それはこっちの話。とにかく闘っておいで。大ボスが弱った後だったら、こっちにも切り札があるけん。」

そう言い、横岡助手はなぜか少し顔を赤らめた。

すると、ステージ中央にいる亜衣から、指示が飛んだ。

「こら、そこ!このままでは、らちが明かん!雄平、変身や!」

「え、え〜?ここで?」

「事件は現場で起こっとるんや。ここで変身せんで、どこで変身する言うんよ?」

「確かに。」

さりげなく仲間に入ってきていた黒川に、すかさず緑川が突っ込む。

「あんたが言うな!」

「黒川さんが、こんなイベントをブッキングせんかったら、話はもっと単純だったばい?」

伊野倉も追い討ち。しかし、オヤジはこたえない。

「ものごとを達成するのに、カンタンな道のりは少ないものさ。試練を乗り越えたときこそ達成したときの喜びもひとしお――。」

「近道があると知っていて、なおわざわざ遠回りをする人の心理とは、これいかに。」

神野までがこう言ったので、オヤジも仕方なく折れた。

「すんませんでした〜。こんどから気をつけます。」

口をとがらせて、横を向く黒川。きっとこいつは反省してない。

そろそろ、見物のちびっ子たちも飽きてきた頃合いである。サヌキレンジャーの六人は、やっとのことで心をひとつにした。

『はよ、終わらしてこの場を去る!』

 

「真っ赤な色は、元気の証!穏やかな気候がはぐくんだ、ちょっと味のくどいヤツ!金時レッド、見参!」

雄平の声を認識した腕時計画型ニューパワーチェンジャーは、本人の考えた【めっちゃ、カッコええ】ポーズをとる雄平の身体の回りに、くどいくらい赤いプロテクターを浮かび上がらせた。ギャラリーから、そこそこの拍手が立ち上る。続いて――。

「青の輝きは、瀬戸内海の海の色。正義の筋肉を、銀鱗きらめく流線型に閉じ込めた!はまちブルーとは、オレのことたい!」

元水泳選手ということもあり、細マッチョの伊野倉は激しい動きでも、少しもぶれない体幹の持ち主である。ハマチが海の中を飛ぶように泳ぐさまをイメージしたデモンストレーションは、それがカッコいいかどうかは別として、見る者にある種の感動を覚えさせた。

伊野倉のプロテクターは、本人が半魚人をイメージしたために、青い仮面ライダーア○ゾンを想像するとわかりやすい。したがってこの登場は、ちびっ子のお父さん方にはウケるが、それを知らないお母さんやちびっ子には「キモい!」と石を投げられるくらい嫌われるという結果に終わった。

 次に現れたのは、双子の(自称)美人姉妹。まず、ステージ向かって左の立ち位置から、自己紹介が始まった。

「白のエネルギーは、若さの象徴。上品な甘さは仮の姿、時には容赦なくあなたのハートにアタック!和三盆ホワイト一号、登場!」

三盆松高校、女子ハンドボール部・部長の亜衣は、細身の身体に似合わず鋭いシュートを決めるので、近隣の高校女子ハンドボール部から恐れられているつわものらしい。彼女が考案した必殺技も、この部活中に編みだしたというから、その威力もハンパないと推測される。(どうやら、そのもうれつなアタックの犠牲者第一号が、伊野倉だったようだ。)

 いつもの容赦ない言動もあいまって、こいつだけは敵に回さないでよかった、とは、メンバー全員一致の感想である。そして、今度は向かって右の麻衣の口上の番だ。

「同じく、白の力は決して切れない強い絆。のど越しが魅力のホワイト二号、よろしくね♡」

新体操で培った、優雅なステップでステージを舞う姿は、けっこう様になっている。それもそのはずで、新体操の競技はいつも『何が目的で、ここ来とんや!』と突っ込みたくなるようなカメラ片手のおっちゃんやら、オタクの兄ちゃんやらの目の前で行われるのだ。特に、友だちが心配して身辺警護をするくらい天然な麻衣は、その辺にけっこう無頓着で、見られていることに対して少しも警戒しないために、好き者のマニアに人気が高い。麻衣にとっては、屋外のこんな小さなステージ上で、しかも見物客が親子連れだから、いつもの大会に比べたらお気楽なものだ。邪心なく舞う麻衣のパフォーマンスが終わると、当然のように惜しみない嵐のような拍手が贈られた。

そして、それに続いたのは、よせばいいのに緑川だった。

「緑のパワーは、エコロジー。壊れたものも、あっ、て間に直してみせようホトトギス。究極の修理屋、オリーブグリーン!御用の節は、モトショップ・グリーンリバーまでどうぞ!」

口上を言い終わるか終わらないかのうちに、ホワイト一号こと亜衣が、思いっきり緑川の後頭部をどついた。

「な、何するんじゃ〜!」

「こんな決め場で、店の宣伝なんかすなっ!」

会場は、爆笑の渦。

「ちょっとくらいええやんか。使えるもんはしっかり使い倒す!これこそ究極のエコロジーやろが。なあ、みんな!」

会場の皆さんに同意を求めたが、あまり同意は得られなかったようで、ぱらぱらとお情け程度の拍手があっただけだ。

「もうええ、次!」

強引な亜衣の進行で次に登場したのは、サヌキレンジャーの知性を自他共に認める神野である。

「黄色は太陽の力。日照りをもたらすこともあるが、災い転じて福と為すのも人の智恵。かりんイエロー、南無大師遍照金剛。」

お坊様の神野は、はでなパフォーマンスはないが、落ち着いた雰囲気で場をなごませる。どちらかというと、今までの五人が落ち着きなさすぎるだけなのだが、最後の締めに登場してくるだけあって、自分の存在の意味をよくわきまえているといった感がある。

 お坊様が着る袈裟をイメージしたプロテクターは、黄色というよりむしろ金色に近い色合いで、孫について来てここを訪れたじいちゃんやばあちゃんが、思わず拝んでしまうくらいに、ありがたく見えた。(当社比で二百パーセント増し?)

 さて、戦隊ヒーローものの王道【ヒーローが口上を言っている間は、攻撃をしてはいけない。】という決まりをしっかり守っていた阿久津は、そこでようやく口を開いた。

「やっと終わったか。じゃあ、始めようか?」

余裕の阿久津。そこへ、緑川がぼそっと言った。

「俺、いつも思うんやけどの…この紹介の間に攻撃しとったら、カンタンにやっつけられるんとちゃうんか?」

しかし、意外にもこんな答えが返ってきた。

「これだから素人は困る。戦いの前に名乗りあうのは、古くからのならわしだ。昔武士が刃を交える前に、お互い名乗りあったという武士道精神に乗っ取り、私もそれにならうとしよう。いくら私でも、そのへんの常識はある!」

「…どんな常識や…。」

しかし、阿久津はひるむ様子もなく、続けた。

「では、今度はこちらの番だな。県庁の手先として、闇雲に私のやらんとしていることを邪魔するサヌキレンジャー諸君。以後、見知りおいてくれたまえ。――いや、その必要もないか。」

「なな、何でじゃ!」

勢いで、そう叫ぶ緑川。単に彼の立ち位置が、もっとも阿久津に近かったからである。

「なぜなら、今日この場所で…お前たちはこの私に敗れるからだ。」

「そんなん、誰が決めたんな!」

うれしげな物言いに、亜衣が反論した。どうやら、自分と同じ上から目線のしゃべり方が気に入らないようだ。しかし敵もさるもの、ひるむ様子さえない。

「誰が決めたかって?もちろん、私だよ。お前たちの、その統一されてないプロテクターを見ただけでわかる。」

「やかましい!自分の名前も名乗れん人に、言われとうないわ!悔しかったら、あんたもポーズとって決めゼリフ言うてんまい。…私ら、めっちゃ練習したんやけんな!」

「悪いが、お前たちに名乗る名などない。――敗れたお前たちの目に、この神々しいプロテクターが焼き付けられたあとにでも教えてやろう。」

不敵に笑う阿久津。あえて言うなら、ダークという出で立ちの黒光りするプロテクターは、サヌキ県の平和を守る正義の使者、サヌキレンジャーよりも格段にカッコいい。ゆっくりとサヌキレンジャーの方に伸ばされた左腕の周りに、奇妙な突起ができ始めたかと思うと、それが弓の形に固まったのがわかる。程なく、右腕には矢が形づくられた。

「そ、そんなん、効かんぞ!」

雄平の強がりに、阿久津はマスクの下で、にやりと笑った。(と思われる。)

「そう慌てるな。お前たちの始末は、あとでゆっくりとしてやるさ。」

「そんなら、何でそんな武器を出すんじゃ!」

緑川も、へっぴり腰ながら言い返した。

「――こうするためさ!」

はなたれた矢は、雄平たちの横でぼうぜんと立ちすくんでいた、さいたクリーンサービスの皆さんの直前で、奇妙なエネルギーの塊となったかと思うと、全員を飲み込んだ。

「うわあああ!」

「いかん!」

伊野倉が、あわててその塊に触れようとしたが、磁石が反発するように近づけば近づくほど強い力で押しもどされる。雄平も叫んだ。

「こら!おっちゃんらをどうする気や!」

「どうするもこうするも…そっちは六人。多勢に無勢だから、こっちも味方を増やすまで。」

「なるほど、確かに不公平だ。」

妙に納得する神野。

「納得しとる場合でないやろ!こんなもん、さっさと片づけるで!」

亜衣が、必殺技をそのエネルギーのかたまりめがけて繰り出そうとしたその時。

振り上げた亜衣の右手を、はばむ者がある。

「何するんな!放しまい、関係ない人はギャラリーに混じって、見物しとってよ。」

亜衣はその手を振りほどこうとした。しかし、変身後で、パワーアップしているはずなのに、生身の人間の手を振りほどくことができない。

「うそっ、こんなん、考えられん!」

もがけばもがくほど、手はきつく食い込んでゆくようだ。勝気な亜衣が、目の前のおっちゃんこと坂元社長に恐怖を感じているのが、ありありとわかる。

「サヌキレンジャーといえども、精神はただの女子高生。他愛もない。」

阿久津の声の調子で、仮面の下の顔が意地悪く笑っているのがわかる。

「亜衣ちゃん!」

青い仮面ライダー○マゾンが亜衣のもとに駆け寄り、おっちゃんに一撃を食らわせてひるんだところで、ようやく手を振りほどくことができた。

「大丈夫か、亜衣ちゃん!」

「うん。何とか――ありがと。」

「亜衣ちゃんがそげん言うの、はじめて聞いたとよ。」

「そ…そんなこと、今言うとる場合でないで。」

亜衣の視線の先では、さいたクリーンサービスの坂元社長とその社員たちが、怪しい光に包まれた中で、文字通りあやしく変身しつつある。社長にいたっては、阿久津が持っていたような携帯電話で、悪の化身に変身までしていた。

阿久津がダークなら、社長はグレーという色合いで、明らかにサヌキレンジャーに対抗するため、考えられたコンビだと思われた。

「うわ〜、悪の組織幹部二人と、その下っ端いうカンジ?」

緑川の言葉に、神野が付け足した。

「見かけはそうですが、悪の本体はあの黒光りするほうですね。便宜上、【ダーク】とでも名前をつけておきましょう。クリーンサービスの皆さんは、単に操られているだけです。」

「そんなら、どうにかして助けてあげんと!」

すぐ横で、麻衣が言う。しかし、何をすべきなのか皆目見当がつかないのだ。

雄平の脳裏に、陽気に酒を飲む坂元社長と、社員たちの笑顔が浮かんだ。

「彼らを助けるには、闇の力の本体を倒すか、改心させないと無理かもしれません。」

そういう神野に、雄平は最後の望みをかけた。自分より頭が良くて、思慮深いお坊さまなら、何かいい考えがあるかもしれない。

「神野さん、あんたお坊さんなんやろ?どうにかできんのな。」

しかし神野は、声の調子こそ変わらないが、眉間にしわを寄せて答えた。

「仏の教えに携わっているからといって、人を改心させられるわけではありません。我々は、悔い改めようと思っているけれども、最後の一歩が踏み出せない人たちを、後押しすることしかできないのです。」

ステージ上でにらみあったまま動かないサヌキレンジャーと、悪の組織。膠着状態が続くと困るのは、何も闘う本人たちだけではない。このあやしいイベントを司会進行するお姉さんは、あくまでステージをつつがなく終わらせようと、ギャラリーの中にマイクを持ってなだれ込んだ。

「さあっ!正義の味方と、悪者のゴミゴミ団。どっちが勝つと思う?」

マイクを向けられた男の子が、正直な意見を吐いた。

「う〜ん?カッコいいほうがかつと、いいな〜。」

「あ、そう。どっちがカッコいいの?」

「こっち。」

指さしたのは、阿久津たちの集団のほうだった。爆笑する悪の組織。

「見てみ〜?やっぱこっちのほうが、センスがええんぞ!」

悪の組織の高笑いが続く中、神野が叫んだ。

「我々に今必要なのはセンスにあらず!正義を愛する心と、真実を見る目だ!」

「何だと〜?」

今にも飛び掛らんばかりの、悪の組織下っ端たち。ステージ上で、まさに戦いの火蓋が切られようとしたその時だ。

「まあ、待てい。お前らでは勝てん、わしが必殺技を繰り出そう。」

グレーのプロテクターが、一歩前へ出た。

「――あんた、真実を見ることが大事や言うたよな?」

「……はい。」

警戒しつつ、そう答える神野。

「そんならあんたは、誰にもごまかしせんと、本音で生きとるんやな?」

「そっ、それ…は。」

「わしは知っとるぞ。あんた、競輪の選手になりたいのに、実家の寺継いどるんやろが?自分の気持ちにウソをついとるもんが、他人さまに真実を見い、やゆうて、片腹痛いわ。」

戦意をもがれて、うなだれる神野。どうやら相手は、こちらの素行調査を綿密にしているらしい。

「ヤツの言葉を聞いてはいかんぞ!」

ステージ下から、久利林教授が叫んだ。

「その技は【わるぐち】だ!技がヒットすると、こちらの攻撃力が半減する!」

「んな、どっかのロープレみたいな話…。」

「よく聞きたまえ。技を食らうたび、ヒットポイントが半減すれば、三回食らった時点で攻撃力はおよそ十分の一だ。そんなことになれば、いくらサヌキレンジャーのプロテクターがあったとしても、めっちゃ元気なお子さまに勝つことすらままならん。」

すると、高笑いを通り越した馬鹿笑いが聞こえた。

「だはははは!その通〜り。これできさまらサヌキレンジャーなど、おそるるに足らん!」

「ひ、卑怯な!…ていうか、そんな技、本当にあったんかい!」

「そらそうじゃ。わしみたいな年寄りが、お前らみたいな若いもん相手にしようと思うたら、こんぐらい卑怯な手使うてもバチ当たらんわい。」

ステージ上の、サヌキレンジャー陣営が凍りついた。へたに乱闘せず、話し合いで解決しようというもくろみがあっただけに、神野が技をくらって戦力外になった今、全体の攻撃力が半分以下に急落したようなものだ。雄平は、おそるおそる言った。

「と…いうことは?」

「ウチの情報収集網なめたらいかんぞ。お前ら全員【わるぐち】でボコボコにしてやる!」 

     続く .........。

 

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