環境戦隊サヌキレンジャー!
  

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金時レッド
環境戦隊サヌキレンジャー! L


秘密兵器がやってきた

 

 
 
 それから、それから。

 この間のうどん巡礼…でなかった、サヌキレンジャーのメンバーにあう会(そのネーミングもどうかと思うが)から一週間ほど後のこと。いつも陽気な赤青コンビは、休みでもないのに県庁地下の、例の秘密基地にいた。

「へ〜、知らんやったー。こんなとこ、いつ作ったと?…お金かかっとるような、そうでないような、微妙な基地やねぇ。」

ものめずらしく液晶ハイビジョンモニターの画面に見入ったり、その辺のパソコンキーボードにさわったりと、伊野倉のテンションは高い。それに反して――。

 雄平のテンションはどん底だった。

「いかんなぁ、いい若いもんが。ほら、もっと陽気に!」

この声は言わずと知れた、あるときは県内産業振興課課長、そしてまたあるときはサヌキレンジャー長官。そしてその実体は、言わずと知れた黒川大である。

その思わせぶりなセリフにむかついた雄平は、自然ときつい口調で答えた。

「なれますかっ!だいいち、こんな平日に何で呼び出しするんですか?!」

「決まってるじゃないか。土日は休日出勤になるからだよ。…考えてもみたまえ、休日加算は貴重な活動資金の無駄遣いじゃないか。」

大きくため息をついて、雄平はぼそっとつぶやいた。

「悪の組織が、土日はずして攻撃してきますかね?」

「何か言ったかね?」

しかし雄平はそのことには触れずにごまかした。

「オレらは公務員でもなんでもないんで、土日のほうがありがたいんですけど?」

ところが、黒川は雄平のいやみをかるく左に受け流した。この辺が年の功。

「はっはっはっ、秋山くん?悪の組織が土日に攻撃してくるとは限らんだろうに。」

『あかんわ、この人。』

雄平は心でさじを投げた。(しかしこの両者の戦い、第三者的な視点で見ると実に五十歩百歩ではある。)

「…もうええです。早う用事済ませて帰りたいんで、用件を聞きましょう。」

「またまた〜!相変わらず秋山くんったら、ツンデレなんだから〜。」

【死刑!】のポーズで、つんつんしてくる黒川を見ていると、この人がどうやって公務員試験を突破したのかがよくわからない。昨今の高校受験のように、【自己推薦】枠があって、そこでお得意のアニメやら特撮やらの無駄知識を総動員してPRした結果、試験官が奇特な人で、「これからは公務員も笑いが取れなくてはいけない。」と考えたあげくに、間違って合格させてしまった、というようなことがない限りは。

 雄平のつっこみも、心なしかキレが悪い。

「が○デカのこまわりくんですか……?」

「そう!キミもなかなかカルトだねぇ!」

話が横道にそれそうだったからか、伊野倉がめずらしく黒川の話の腰を折った。

「…ところで、今回オレらが呼ばれた理由は?」

「まさか、さして理由がないとは言いませんよね?」

雄平もここぞとばかりに、黒川をにらむ。当然だろう。理由もないのに、本業のニンジン作りを、こうもしょっちゅうジャマされてはたまらない。最近はどうせでも家を空けている自分の代わりに母が畑に出ることが多く、そのたびにいやみを言われて精神的にダメージを受けているのは、他ならない自分だからだ。

しかし年の功で、またも左に受け流されるいやみ。

「いくら私でも、そんないいかげんなことはしないから、安心したまえ。――じゃあ、緑川くん?入ってきていいよ。」

黒川の声に、ひとりの(…どちらかというと、あまりマジメに世間を生きているとは思えない)人が部屋に入ってきた。

頭に緑色のメッシュを入れた、ちょっと前の○バート馬場くんのような人物。しかしその表情は、お世辞にも馬場くんみたいに気のぬけた感じではなく、どちらかというとそこにいる誰かに、恨みを抱いているような…?

 雄平と伊野倉は、ひたすらその誰かが自分でないことを祈った。しかし。

 ――恨みがましい視線は、間違いなく自分たちに向けられていた。

「なっ、何ね、その視線は…。」

「何でもくそもあるかいっ!こないだの仕打ち、俺は一生忘れんけんの。」

「こないだ、って?オレら、間違いなく初対面じゃなかね。」

「そんなら聞くが…。会うたことがなかったら、恨まれることはないんか?」

「火のないところに煙は立たん、いうことわざもあることやし?オレらは誓ってあんたには何〜んもしとらんと。」

そのたとえもどうかと思ったが、雄平もとりあえず意地悪をした記憶がないので、こくこくとうなずいて意思表示。――しかし。

頭の片隅に、何だかいや〜な記憶があるのに気付いた。そしてその記憶は、目の前の馬場くんの声と結びついているようだ。あせって、記憶の糸を必死に手繰り寄せようともがく。

『この声…どっかで聞いたような…?』

「――確かに、お前らは何もしてくれんかった。」

詰め寄る緑川。雄平と伊野倉は、迫力に気おされてじりじりと後退。ついに壁にぶち当たって、逃げるわけにはいかなくなってしまった。

にやり、と笑う緑川。お世辞にもさわやかな笑いではない。

「ぼ…ぼ〜りょくはんた〜…い?」

伊野倉を盾にして、かろうじてそれだけの意思表示をする雄平。緑川の動作が、まるでコマ送りのように見える中、雄平の頭の中の回路が突然つながった。

――この声…?

あの時、時計もどきから聞こえてきた声に似ていないか?もしこのヤンキーが、あの時通信をしようとしていたのなら、自分たちは会ったことのない人に恨まれても仕方ないではないか??

 緑川の左手が伊野倉の胸ぐらをつかみ、右手が高く振り上げられた。こんな時の災難を逃れるコマンドは――。

雄平は間髪をいれず、叫んだ。

「ごめんなさい!すんません!ホンマにも〜しわけないです!」

自分でもえっ?と思うくらいすばやく体が反応する。まるで加速装置でもついているかのように、自分の体が伊野倉と緑川の間に割って入り、ついでに振り下ろされるはずだった右手にも、つっかえ棒をすることができたのだから。

「…ゆ、雄平ちゃん?」

しかし、思いつめた雄平は伊野倉の考えに思い至るわけもなく、この場をおさめようと必死だった。

「俺ら、緑川さんのこと、どーでもええと思うたわけでなくて、その、あの時はホンマに疲れとって――。」

緑川の腕から、力が抜けた感じがして、上目遣いでチラ見してみる。

「…ほーか。やっと思い出したんか…。長かったぞ、この一週間は――。」

遠い目をして、ぼそぼそとしゃべりだす。緑川は本来こんなしゃべり方をするらしい。別に聞きたくもないのだが、真横にいるてまえ、逃げられない。

「黒川のおやっさんから連絡もろて…エコバイクの試作品作っりょったんやが、もともとシャイな俺やけんのー。いつまでたっても連絡一つないけん、忘れられたんちゃうんかと思うて決死の覚悟で通信したのに、無視された日にゃ…。」

「そうやね、わかるわその気持ち…。」

相手を刺激しないために、打つ相づちも嘘くさい。

「つらいんぞ、いつまでたっても連絡ひとつなかってみい!…そら、今までやって友達いっぱいおったわけでないけどの。ほんでも、と…友達が黙っとってもできるいうて聞いとったのに、その友達が連絡一つよこさんかったら、お前やってどうかと思うやろが?」

…どうやら、緑川は友達いっぱい作りたくて、サヌキレンジャーになったらしい。

「――ホンマにごめん。こんどからは気いつけるけん。」

「そうしてくれ。オレを友達にしとったら、ええコトあるけん。」

「ええこと?」

「そうや。こう見えてもオレ、一級整備士なんじゃ。お前らの乗るマシンが壊れたら、すぐ直してやるけん。」

「俺らの…?」

「マシン…?」

雄平と伊野倉は顔を見合わせた。

そういえば、さっき緑川は【エコバイク】の試作品とか何とか言っていた?

「…俺らの乗るマシン…言うて?」

恐る恐るそう言い、緑川の顔を見上げる。(気持ちで負けているので、背丈はあまり変わらないのだが、状況説明しようとするとこんな卑屈な表現になることをお許しください。)

と、緑川の目じりが下がり、ちょっとイメージが馬場くんに近くなった。

「よう聞いてくれた!今日俺がわざわざ島から出向いてきたんは、この一ヶ月、俺が心を込めて作ったマシンを見てもらいたいけんじゃ。」

「でも、そんな大事な日に、何でオレ達しかメンバー集まっとらんと?」

伊野倉の冷静なつっこみ。そうすると今度は黒川が不敵に笑った。

「説明しよう。サヌキホワイトこと亜衣ちゃん麻衣ちゃんは学校。ピンクの葉子さんは農協婦人会の寄り合いで忙しく、イエロー神野くんはご近所の法事で忙しいらしい。つまり、暇なのは君達二人だということで。」

「勝手に決めるな!それに、俺だって暇なわけじゃなく、仕事しよったらいつもの怖い人が来て、いつものように有無を言わさず拉致されてきただけじゃっ!なあ、亮ちゃんもそうやろ?」

しかし伊野倉は雄平の予想に反して、しれっ、と言い放った。

「いや?オレはそこそこ暇やったと。」

「亮ちゃん!」

じろりと伊野倉をにらむ雄平。伊野倉はあわてて言葉尻をにごした。

「い…いや?…そういえば、オレもそこそこ忙しかった…かなっ?」

若者のささやかな抵抗は、残念ながら不発に終わった。基本的におじさんはストレスを【柳に風】とばかりに受け流すことができるから、彼らに勝ち目はありえない。

「まあ、まあ、いいじゃないか。どうせこのバイクはキミらが乗るんだから、二人が話を聞いてくれてればいいわけで。」

「そんなあほな。」

「――だって考えてもみたまえ。緑川くんはいいとして、高校生にバイクは無理だし、葉子さんは『あたしや、いつも軽トラ乗っりょるけん、バイクやよう乗らんで。』とかおっしゃるし。神野くんは神野くんで免許持ってないらしいし。」

「このサヌキ県で、車持ってなくて生活できるんですか?」

周りは田んぼや畑だらけ。スーパーだってそんなに近くない。おまけに万濃町にコンビニはあまりなかったはずだ。

 純粋に、雄平は神野を気の毒に思った。

『坂入市にはまだ、コンビニがあるぞ。』

そんな事を考えていた矢先、黒川の声。

「彼はもともと東京の大学に行っていて、車が必要なかったそうだよ。帰ってきてからも、交通手段はもっぱら自転車らしいね。健康にいいそうだ。」

確かに、神野のしゃべり方は標準語で、サヌキ弁のかけらもなかった。根っから田舎者の雄平には、ちょっとコンプレックスを抱かせる内容だ。

「ま、そんなことはどうでもいいんだが、とりあえず見てもらおうじゃないか。文句はそのあとで。」

すると、目の前の床が丸い形に切り抜かれ、さらに下に吸い込まれていく。そしてその数分後、再びせりあがってきたそこにあったのは――!

………郵便屋さんの配達バイクが三台。ごていねいにも、一台は真っ赤、もう一台は真っ青。そして最後の一台は、真緑に塗られていた。

じっと見ていると、目がちかちかするくらい、うっとおしいペイントだった。

「な、何じゃあぁこりゃあぁ〜!」

腹から血を垂れ流しているくらいのいきおいで、雄平は叫んだ。

「すごいやろうが!ホ○ダスーパーカブ、こいつの燃費はバカにならんぞ。環境を守る俺らにぴったりでないか!」

がははは、と笑う緑川。ということは、緑川はこのバイクに乗っても恥ずかしくないわけだ。

――せめて、もうちょっとカッコええバイクにしてほしかったが、持ち前の事なかれ主義は今回もまた口をつぐんだ。(またしばらく、グチが多くなるに違いない。)とりあえず、その色は無視することにして(乗ってしまえば色は気にならないからだろう…。)メーター周り、特に走行キロメーターを見た。(ということは、乗る気なんやな?)

『何ぼ燃費がええいうても、中古は前に乗っとった人のクセがあるけんなー。』

メーターはどれも数十キロ程度の数字を示している。この程度なら、問題ない。バイクの形はともあれ、悪の組織と対決するのに、自前の交通手段があるのは心強い。

『出動に、公共交通機関使う正義の味方と言うんも、情けないしな…。』

しかし、雄平の安堵はすぐに落胆に変わった。

「これはねぇ、もともとウチの産業推進課の職員が使っていたものなんだよ。」

――使っていた?……過去形??

そこのところに気がつくや否や、雄平は弾丸より早く突っこんだ。

「中古車なんかい!」

「とりあえず、メーター一回りしかしてないよ〜。仕方ないじゃないか、この基地作るのに、相当費用がかさんでねぇ。装備は二の次…。」

「二の次ってあんた!仮にも俺ら、戦隊ヒーローでしょうが?」

「だ〜いじょうぶだって。その為に緑川くんにメンバーになってもらったんだから。こわれてもすぐ修理する。コレこそ究極の自己修復機能ってもんじゃないかね!」

盛り上がる黒川に、冷静に突っこむ雄平。

「人間は機能とちゃいます。だいいち、中古のバイクを修理したから言うて、メーター一回りしとるバイクがまともに走るんですか?」

すると、二方向から同時に文句が出た。

「おいっ!オレの腕を信用せんのか!」

「失礼な!ウチの課は、みんな安全運転。み〜んな※SDカード保持者だもん。」

(※安全運転をした方々に贈られるカード。でも、コレを持っていて交通違反をしようものなら、おまわりさんにこっぴどくしかられるという、諸刃の剣でもある。飛ばし屋さんや道路法規に自信のない人は、免許ケースに入れないほうが賢明だろう。)

まあ、そんな細かいことは横に置いといて、基本的なところからつっこむほうに路線変更した雄平。

「第一、サヌキレンジャーは、県内の産業を活性化させるのが目的なんとちゃうんですか?緑川さんは一級整備士や言うことやけど、そんならサヌキの特産品で固めたコンセプトから外れてしまうやないですか!」

「環境に優しいバイク屋さん、ということじゃだめかなぁ?」

ちょっと下手に出られて、ここぞとばかりに強気で追い討ちをかける。

「ダメです。名前が緑だからって、ここは譲れません。」

しかし、敵もさるもの。その辺につっこまれるのは先刻承知だったようだ。黒川はにやり、と笑うと、こう切りかえしてきた。

「ざ〜んねんで〜した。緑川くんのうちは、お父さんがオリーブ農家で、緑川くんが自宅の納屋を改造してバイクショップをやってるんだよ。」

「でっ、でも――!」

「こう見えてもオリーブの手入れが必要なときや、収穫なんかの人手が必要なときには、ちゃんと家業も手伝っている親孝行な子だと、近所でも評判でねえ。」

視線が緑川に集中する。軽いウエーブのかかった髪の半分は緑色。やせて頬骨の出た細面の輪郭に、細い目。極めつけは薄い唇。これほど○場くんに似ていて、親孝行な息子だとはとても思えない。(馬○くん、申しわけない。)

当の本人は、いっちょまえにそうおだてられて、木に登っていた。貧弱なパーツをフルに使い、細い目をもっと糸みたいにして、五木ひろし並みに笑っているのが見えた。

『基本的に、悪い人とちゃうみたいやけど…。』

雄平には、もしここで自分がゴネたとしても、結果的には黒川の計略が通ってしまうということがわかっている。仕方ないので、ここらで妥協することにした。

「…ほんなら、好きにしたらええじゃないですか。どうせ俺らには事後承諾なんやったら、いちいち呼びつけんとってください!」

雄平は向こう側に見えている別の扉に向かった。とにかくここを離れたかったからだが、背中を向ける雄平の手を、誰かがつかんで引きとめた。

「もう!ひつこいの〜!」

振り切って扉に向かう。聞きたくもない黒川の声も聞こえたが、無視する。

「秋山くん、そこは入っちゃだめだって………!」

雄平の目の前で扉が開く。一歩そこに足を踏み入れた…と思ったが、そこには床がなかった。

「うわぁあ〜!落ちる…?」

落ちたかと思ったら、何だかぶよんぶよんした床につかまり、体勢を立て直す間もなく上に放り投げられる。次の瞬間に雄平は、県庁奥の立体駐車場前に放り出されていた。どうやら、侵入者を外に放り出すための仕掛けに引っかかったらしい。

「もう、イヤ!!」

     続く .........。

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